Black Mischief 「いってらっさーい。」 「おう。大人しくしとけよ。」 そう言って死神姿の一護は窓から外へ飛び出した。 ちょうど一日で一番暑い時間帯。 だけど死神には気温とかそういったものは関係ないらしいから、極端に暑い時なんかはこっちのほうが便利だと確か彼は言っていた筈。 ところでオレの方はと言うと、駄々をこねた甲斐あってか、現在、ヌイグルミではなく一護の体に入っている。 死神の許可証を得たことで一護は姐さんが使ってたグローブも義魂丸としてのオレも必要としなくなったけれど、それでもたまにこの体に入れてもらえるのはオレの楽しみと言うか喜びと言うか。 尸魂界に行って来たおかげで随分一護は強くなったと思う。死神の力もそうだけど、人間として。 そのことについて、オレは一護が尸魂界に行った事、そしてあの浦原喜助がそうなるように仕組んだことは結果的によかったのだと思った。 姐さんもなんだか色々吹っ切れたらしいし。うん、良かった。 でも、オレにとってはここで「めでたしめでたし」なんてすることは出来ない。 あるとき一護がポロリと零した言葉。 それは尸魂界で自分の身に起こったことを面白おかしく、ときに辛そうに話したものだったが、その中にあったのだ。大怪我をしたことが。 そりゃァあんなトコだから怪我くらいするのは当たり前だろうし、それに死ななかっただけ幸運だったと言えるのかもしれないけど、やっぱりスゲー嫌で、スゲー怖かった。そして腹が立った。 尸魂界に行かなければ、一護は腹を掻っ捌かれ、痛くて辛くて悔しくて悲しい思いをしなくて済んだ。 姐さんが連れ去られなければ一護は尸魂界に行かなくて済んだ。 アイツが余計なことをしなければ、姐さんはあんなふうに連れ去られなくて済んだ。 ―――アイツが・・・浦原喜助が余計なことをしなければ、一護は嫌な思いをしなくて済んだのだ。 ああ、なんて自分勝手な言い分だろうか。 だけどオレは聖人君子じゃないんだし、矛盾したことや無茶苦茶な事も思っちまうわけだよ。 つまりはさ、大切な人・大好きな人が何をやったってオレはそれを否定なんてしないんだ。 何をやっても正しいと認めるよ。 でもさ、嫌いなヤツは何をやったって、例えそれによって良い事が起こったって、オレはその悪い所を探し出して非難する。アイツは最低だ・って。 差が激しいなぁ・なんて思うこともあるけれども、こういう風にオレを作ったヤツに全て責任がある。 つーことで、とにかくやっぱりオレの気に入らないヤツ堂々一位はあの男なわけだ。 一護の気配も遠ざかった所で、オレは一階に降り、一護の妹を探した。 「あ、遊子。ホウ酸団子とかねぇかな?ゴキ殺すやつ。」 「あるよ。ちょっと待っててね。」 洗濯物をたたんでいた遊子はそれを止めてオレの希望の品を持ってきてくれた。 やっぱ家のコト訊くならこの子だよな。 そう感心しながら礼を言って、オレは一護の部屋に戻った。 そして、ごそごそとオレ専用のスペースから取り出したのはいかにも手作りな感じのマドレーヌ。 実はこれ、一護に作ってもらったものなのだ。 それを二つだけ別の箱に移し、オレは遊子に貰ったホウ酸団子をバラバラに砕いてその上にかけた。 ゴメン、一護。食べ物を粗末にして。 オレだって本当はこんなことしたくないんだ・・・!せっかく一護に作ってもらったのに・・・! でもアイツを消すためには!それが無理でもせめてちょっとくらい苦しい思いをさせてやるには! 心の中で延々と一護に謝りつつ、オレはそれを綺麗に包装した。 そしてそれを持って家を出る。 目指すは浦原商店。 そこの店主に顔を見せてオレは言うのだ。 「これ、一護から。手作りだってさ。」 少々怪しまれるかもしれないが、きっと目的は達成されるはずだ。 なんと言っても強力な呪文だからな。これは。 そうしてオレはほくそ笑んだのだ。 |