好きなものとそれに対する態度。
嫌いなものとそれに対する態度。 ただちょっと、オレはその差が激しいだけ。 Black Tune
「お兄ちゃん、最近、浦原さんの所に行ってないよね?
いつもお世話になってるんだから顔見せくらいして来たら?」 夏休みのある晴れた日。 一護の妹の片割れにそう突然告げられて、オレは口に含んだオムライスを危うく噴出しそうになった。 横でヒゲ――もちろん一護の親父のことだ――が一瞬妙な顔になったが、とりあえず無視。 麦茶で口の中のものを流し込んでから、オレはなるべく(今はアチラに行っている)この体の持ち主に真似て 口を開いた。 「そうだったか?そんじゃ、メシ食ってから行ってみるわ。」 「うん。お隣さんに頂いた葛饅頭があるから、それも持って行ってね。」 「お、おう。」 オレの天敵でもあるその少女はオレの答えに満足したらしく、ニッコリ笑ってコップに麦茶を継ぎ足してくれた。 それにしても、まさかオレがあの野郎の所に行かなくてはならないとは。くそぅ。 しかも手土産つきだぜ?ふざけんなっつーの。 ・・・いや、別に一護の妹が悪いわけじゃねーんだけど。 オレが気に入らねぇのはあの男の存在自体、だからな。 ま、ぐだぐだ言っても行くしかねぇモンは行くしかない。 つーことで、オレは仕方なく。本当に仕方なく、あの下駄野郎の所へ向かったのだ。 「っつーわけで、来た。」 「何が“っつーわけで”なのかは分りませんが、イラッシャイマセ。黒崎サン家の改造魂魄クン。」 うおー。その目、オレのこと気に入らねぇって言ってんぜ? オレもアンタのコト気に入らねぇケド。 むしろ消えろ。今すぐ消えろ。 オマエは一護にとって害にしかならない。 「ハイハイ。イラッシャイました。で、これ。一護の妹が持って行けって言うから。」 そう言って、綺麗に包装された饅頭を差し出す。 「それはどうも。・・・ここでハイ、サヨナラってわけにもいきませんし、ちょっと涼んでいかれます?」 「あー。そうする。」 さっさと帰りてぇが、一護の体を休ませねぇとな。さすがにこの時間帯は陽射しがキツイ。 ホント、人の体は脆いなぁ。一護のだから大切にするつもりだけど。 客間かどこかの部屋に通されたオレは、この家の主より先にドカリと腰を下ろした。 「行儀悪いっスねぇ。黒崎サンとは大違いだ。」 「そりゃ、オレは一護じゃねーし。アタリマエだろーが。」 このクソ下駄が。バカじゃねぇの? 口には出さないがそう思ったのに野郎も気づいたらしい。 不機嫌そうにコチラを睨む。 「慎みというものを知らないのか。改造魂魄。 言っておくが、貴様ごときがその体に入っていること自体、分不相応なことだぞ。」 怒りのこもった重低音。 いきなり口調の変わったそれに、しかしオレは怯むどころか嘲笑って見返した。 分不相応はテメーもだろ? 「あーハイハイ。そうですね。そんな事とっくに承知してますよ? この躯は他人が軽々しく触れていいモンじゃない。 あ、“他人”にはアンタも含まれてるっての、分ってんだろうな? ハハっ。まさか自分は良いと思ってんの?それこそ分不相応だぜ。」 いっきに言い切ってやれば、目の前の男はさらに目つきをきつくしてきた。 帽子の影から僅かに覗くそれがオレの嫌悪感を倍増させる。 でも分ってる?その目つき。 それってもう自分の負けを認めてるようなモンだぜ? 「ヤだねー。まさか自分だけは一護に相応しいとでも思ってた? そうでなくても触れて良いぐらいには?うわー。サイアク。ダメダメ。 一護の傍に居て良いのはほんの一握りの奴らだけだ。 アンタがその中に入ってるワケねーだろうが。オマエこそ慎め。」 一護の顔で、一護の体で。こんなことを言われるのはこの男にとってどれ程のものなのだろうか。 とりあえず、ダメージはデカイと嬉しいな。 ニッと笑ってオレは立ち上がる。 「それじゃァな、浦原さん。これで失礼するぜ。」 最後に一護の真似をして、オレは真昼の太陽の下に出て行った。 |