一歩先が見えぬ闇ではなく。
かと言って遠くまで見渡せる明るい世界でもなく。

近くは見えるが遠くは見えぬその薄闇の中、
ただ己が身を捧げるという服従心のみが存在していた。














薄闇の服従心


















口内から大きな異物が取り除かれ、
次の瞬間、顔面に熱い液体をかけられた。

「・・・っ」

反射的に目を瞑る。
と、目元を拭われ、顔をあげるよう頬に手を添えられた。

瞼を上げる。
目の前にあったのは親指を俺の顔面にかかる液体と同じもので汚した右手。
その手のぬしが薄く笑って言葉を吐いた。

「舐めて?」

言われるままに、一瞬の躊躇いもなくその手に舌を這わす。
ピチャピチャと水音を立てながら舐め取り、そうしてその手の持ち主と視線を合わせた。
くすんだ金髪の男――俺の隊長であるその人物が満足そうに笑い、
俺は無表情にその顔を見つめ続けた。
元は命の源であった白濁が顎を伝い、黒い死覇装に白い斑点をつけていくのを感じながら。

「こういうのは、あんまり好きじゃない?」
「いえ。問題ありません。」
「そう?その割には反応してないっスよ?」

言いながら、隊長は袴の上から俺自身に触れた。
隊長は力なくそこに存在する俺自身が些か気に入らなかったらしい。
その秀麗な顔を僅かに歪め、そんなことを言った。
俺はその言葉に返す。

「お望みとあらば勃起させますが?」

言いよどむ事もなく、顔を赤らめることもなく。
ただ、淡々と。

「アタシが望めばキミは何だってシてくれるの?」
「はい。貴方は隊長、俺はその副官ですから。」
「ふーん・・・」

隊長が気のない返事をした。
そのまま、無言。
特に言うこともなく、部屋には沈黙が満ちた。





どれくらいそうしていただろうか。
静寂を破るように部屋の外からウチの隊の第三席の声がかかった。

「黒崎副隊長!浦原隊長は此方にいらっしゃいませんか?」

それを耳に入れつつ顔を上げる。
視線の先には隊長。
言葉よりも何よりも雄弁にものを語るその瞳を見つめて、外の三席に返事を返した。

「いや、此処にはいらっしゃらない。他を当たってみてくれ。」
「はっ。失礼いたしました。」

既に熱の引いた白濁を滴らせたまま、いつもの調子で声を出す俺を
目の前の人物は面白そうな、しかしどこか不機嫌そうな顔で見つめていた。
三席の気配が遠のく。
それを感じてから隊長は口を開いた。

「ねぇ。隊長なら・・・キミの上官なら、キミは何だって言うことを聞くの?
アタシであろうが、誰であろうが。」
「それに答えることを、貴方は望んでいらっしゃらないでしょう?」
「・・・っ、そうかもしれないっスね。」

言ってから苦笑し、隊長は部屋を出ようと両開きの戸に手をかけた。
その背に声をかける。

「貴方が隊長である限り、俺は貴方の副官として貴方に仕え続けますよ。・・・貴方がそう望むなら。」
「そうっスか。」
「はい。」

戸が開かれ、薄暗かった室内に光が差し込む。
そのまま隊長は外界へと姿を消した。
ただ一言、

「その言葉も、アタシが望んでいるから・なんっスよね。」

と言い残して。

返せる時間はあったが、俺は答えなかった。
それは、望まれたものではなかったから。























だから石は投げないで・・・!











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