欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。 ―――それは、どういう意味で? 鬼事
「浦原、アンタが欲しい。」
「・・・え?」 突然の言葉。 見上げる瞳。 その琥珀色に飲み込まれそうになって、浦原はふらりと眩暈を感じた。 「そのまんまじゃん。俺は、アンタが、欲しい。」 ぐい・と、躯を寄せてくる恋人に心臓が大きく脈打つ。 細い、少々筋張った若い躯。 今まで幾度か触れることはあったが、“そういう意味”としての接触は全くなかった。 どこまでも清く、幼いレンアイ。 欲求不満はもちろんあった。 それでも、この恋人が本当に大切で仕方なかったし、 何より彼と一緒にいられるだけで、言いようもない幸福感がこの身を満たしていたのだ。 それが今、ついに。 黒崎サンからお誘いがかかってしまった・・・! 嬉しい反面、自分から誘えなかったことが少々悲しくもあり、そして悔しい。 それでもやっぱり嬉しいものは嬉しい。 というか、ヤバイ。 彼の言葉一つで非常に大変な状態だ。 上も下も内も外も。 しかも今の彼はその琥珀色を僅かに潤ませ、どことなく目元も赤いような気がする。 この状態を言葉に表すなら、すなわち。 据え膳食わぬは男の恥。イタダキマス。 一護の頬に手を添えて浦原が顔を近づける。 しかし、ガシッと音がしそうな勢いでその進行が止められた。 「あの・・・・・・黒崎サン?」 頭を両手で固定されたまま、戸惑い、目の前の顔を見つめる。 あったのはいつも以上に眉間に皺が寄った仏頂面。 その彼が、口を開く。 「アンタさ、俺の質問に答えてねぇじゃん。 ・・・で、どっちなんだ?・・・くれる?くれない?」 あれ?なんか話がおかしくありません? いや、そんなことないか・・・? 僅かばかり妙な違和感を感じつつも、浦原はニコリと微笑んで見せた。 「もちろん差し上げますよ。 黒崎サンになら、アタシの全てを差し上げたって構わない。 むしろ喜んでキミの前に差し出しましょう。」 本音。 そう言えば、一護はふわりと微笑み、首に両手を回してきた。 「嬉しい。ホントにホントだよな?」 「え、ええ。」 今まで見たことがないやわらかな笑みを見せられて、柄にもなく顔が熱い。 心臓は勢いよく鼓動を刻み、側頭部がその脈を感じ取る。 そして、再び口付けようと顔を寄せ・・・・・・ スルリと腕を解き、浦原から離れていく一護。 「くろ、さ・・き、サン?」 あれ?と思いながら状況を整理。 先程まで恋人は自分の腕の中にいて、それで自分ことを欲しいと言ってくれた。 それすなわち「抱いて欲しい」という事だろう。 しかし現在、彼は目の前に立っていて、自分は彼に触れていない。 むしろ触れさせてくれない? しかしその表情は酷く満足げで、これ以上の幸せはないくらいだ・ってぐらいに笑みを形作っている。 「黒崎サン。あの、キミは一体なにをしたいんスか?」 ポロリ、と外に漏れ出た疑問は、 ころころと畳の上を転がって、一護の足元にぶつかった。 一護が少し不機嫌そうに眉間の皺を深くする。 < そして「もしかして何にもわかんねぇで答えたのか?」と溜息と一緒に吐かれてしまった。 「そのまんまの意味じゃん。 俺はアンタが欲しい。その頭脳と強さが欲しい。 ・・・だから、あんたが欲しいって言ったんだけど?わかった?」 「・・・ッ!?」 理解不能。 ・・・否、脳が理解を拒むほどの衝撃。 先程までとは真逆の意味で、浦原は眩暈に襲われた。 「それ、は・・・道具としてアタシのことが欲しいと?」 震えそうになるのを必死に抑えて声を出す。 目の前の子供に縋りそうになる右手を左手で畳に縫いとめた。 そして、一護が嗤う。 「答えは、イエス・だ。 ・・・あぁもしかして、俺が抱いてくれ・なんて言ってると思った?」 笑みを形作った顔のまま、その右手に顎をつかまれた。 畳の上に座り込んだ体勢のまま、無理矢理に斜め上の一護と目が合わされる。 「アンタって、本当に馬鹿だなぁ・・・愚かすぎて、ついつい恋人ごっこなんかしちまうくらいに。」 ニコリ、と。 告げられた本音に視線が動かせなくなった。 脳は既に思考停止。 これ以上のダメージを受けまいと躍起になって全ての機能を止めようとする。 ―――だから、彼の左手に隠されていた物に気づけなかった。 「しゃーねぇなぁ・・・そんじゃ、もうちょっとだけ恋人ごっこ続けてやるよ。 今度はもう少し進んだ関係まで行ってやるから。・・・だから今は、オヤスミ。」 ボンッと目の前が白煙に覆われた。 それに驚く暇すら与えられず、ブラックアウト。 ドサリ・・・と崩れ落ちた体を見つめつつ、一護は溜息をついた。 「俺もつくづく甘いよなぁ・・・・・・これで3回目だ。」 そのまま座り込み、苦笑をもらす。 そして、くすんだ金髪を手で梳きながら意識のない浦原にそっと囁いた。 「俺、“物”を愛する趣味はねぇから。そこんとこ、ヨロシク。」 キミが欲しい。アンタが欲しい。 異なる「欲」を追い求め、不毛な鬼事はまだまだ続く。 |