花より団子?
いいえ。団子より何よりはなでしょう。























花より華を

















「こんにちはー」

厳しい寒さも終わりを告げ、天気予報では花粉情報に続いて桜の開花予想なども発表されだした、
ある暖かい日の午後。
オレンジ色の髪が目を引く少年―――黒崎一護は異次元駄菓子屋・浦原商店の敷居を跨いだ。



「おお、黒崎殿。」

店に出ていたのは巨漢の店員。
彼は戸口に立つ一護の姿を認め「いらっしゃいませ」とにこやかに告げた。

「こんにちは、テッサイさん。浦原は?」
「店長はお部屋にいらっしゃいますぞ。」
「ありがとう。」

そう言って靴を脱いで畳へと上がる。

勝手知ったるなんとやら。
一護は迷うことなく浦原の自室に向かった。

















「浦原ー?」

近づいて来た気配と障子の前でかけられた声に浦原がクスリと笑う。

「どうぞ黒崎サン。お入りなさいな。」

かけられた声に開く障子。
そして覗くオレンジ色。

「よっ。」
「こんにちは。今日はそちらから来られたんスね。」

珍しく遠回りの縁側に面した方から入室した一護に笑みを向ける。
すると一護は照れたようにうっすらと目元を赤くして「庭が・・・」と口を開いた。

「庭?何か面白いものでもありましたっけ?」

開かれた障子の向こう側に広がるのは異次元駄菓子屋の名に相応しい結構な広さの庭園。
いたる所で優しい緑色が芽吹きだしている中、ひときわ美しい色彩を持つのが
すでに古木と言っても可笑しくない枝垂桜。
淡いピンクの花を枝につけて見事に咲き誇っている。

「あぁ・・・桜が咲いてますね。」
「うん。・・・あれがスッゲー綺麗でさ。ちょっと見ていこうと思って。」

庭を見つめる一護。
花を愛でるその顔は眉間のシワも減っていつもより優しそうな表情になっている。



「それなら今日はお花見でもしましょうか。」

一護を後ろから抱きしめて言う。
耳元で話しかけられた一護は首まで真っ赤だ。
浦原はそんな恋人のいつまで経っても初心な態度に喉の奥でクツリと笑った。

「テッサイに頼んでお茶とお菓子を用意しましょう。場所はここで?それとも木の所まで行きますか?」
「こ、ここでいい。」
「わかりました。」

そう言ってこめかみの辺りに口づけを落とし、一護から離れる。

「ちょっと待っていて下さいね。」
「ん。」

ぶっきら棒に答えると、浦原は「良い子にしててね」と笑いながら
一護が入ってきたのとは別の庭に面していない方―――襖の向こうに姿を消した。


「良い子って何だよ。良い子って・・・」




















浦原が部屋を出てそれほど時間も経たないうちに再び襖が開いた。

「お待たせしました。」
「あれ?結構早かったな。」
「ええ。丁度テッサイが用意してくれてたんス。」

言って、左手に持ったお盆を差し出す。

「今日は関西風桜餅。もちろんテッサイのお手製っスよンv」
「うわー、スッゲー!・・・なんか食べるの勿体無いかも。」

ツヤのある桜色の道明寺が塩漬けの葉に包まれ顔を覗かせている。
それをしげしげと眺め一護が漏らした感想に浦原はクスリと笑みを零した。

「黒崎サンにそう言って頂ければテッサイも喜びますね。」



それから二人して縁側に腰を下ろし、浦原は急須からお茶を注ぎ一護に手渡す。

「どうぞ。」
「サンキュ。・・・・・・うまい。」

お茶の味に詳しいわけではないが、それでもおいしいと感じる。
薫り高くほのかに甘みのある緑茶をすすって一護が一息ついた。

「ありがとうございます。」
横で浦原が微笑む。


一護は桜餅の乗った皿を手にとった。
それを一口含み、餡子の甘さと桜の葉の塩味そして道明寺の舌触りを楽しみながら庭の桜を眺める。

目の前には見事な枝垂桜。
口の中には美味しい和菓子。
気候も丁度良く、庭園に太陽光が降り注ぎ、寒からず暑からずといったところ。
そして、隣には浦原。



幸せってこういう事を言うのかなぁ・なんてガラにも無いことを思っていると、
ふと横からの視線を感じて一護はそちらに顔を向けた。

一緒に桜を見ていたはずの浦原と目が合う。

「・・・アンタ何してんだよ。」
「何って・・・黒崎サンを見てますよ。」

なにも可笑しいことは無い・と言うように浦原が答えた。
一護が眉根を寄せる。

「は?俺なんか見て何が楽しいんだ?」
「えぇ!?楽しいじゃないっスか、花見。」



風が吹き、淡桃色の花弁が目の前を横切る。
しかし二人は見詰め合ったまま、一言も発さない。
と、一護が首を巡らし桜に向き直った。

「綺麗だよなぁ・・・桜。」
「なに、何もなかったようなフリしてるんですか。」

浦原に言われ、一護が顔を真っ赤にして勢いよく振り返った。

「だっ・・・だってお前なぁ!!花見って・・・!」
「花ですよ?綺麗な綺麗なアタシだけの華。桜なんか比べ物にならないくらいに。」

うっそりと微笑み、浦原は目の前の子供に手を伸ばす。

―――どうせ見るならより美しい方がいいでしょう?



手のひらで頬を包み込むように撫で、一護の耳元に顔を寄せる。

「でも横顔ばっかりは悲しいので、そろそろキミもアタシを見てくださいな。」

そう言ってぺろりと耳殻を舐めれば微かに震える子供。

「ね?」

視線を合わせてお願いすれば真っ赤な顔のままこくりと頷いた。
それに満足そうに微笑み、浦原は一護の手をとって立ち上がる。

「部屋に戻りましょうか。」


そうして桜に背を向けたまま障子がパタンと閉じられた。























このあと一護は浦原さんに美味しく頂かれます(当たり前)











BACK