今年の3月13日は日曜だったから、その日は一日中妹達の願いを聞いて。
それから月曜の14日はルキアと織姫にお返しを・・・
―――そんな感じで一護は今年のホワイトデーを迎えていた。















White Happy













3月14日。
所々で街灯が道路を照らす中、一護は黒地に白文字の紙袋を手に持って一人歩いていた。

今宵は三日月であまり明るくはない。
だから街灯が消えたら星がたくさん見えるんじゃないかな・などと思いつつ一護は白い息を吐いた。
3月に入っても夜は結構冷え込むもので、1月や2月ほどではないが、上着越しに冷気が伝わってくる。
吐いた息は濃い白からだんだんと薄れ、最後には空気中に溶けて消えた。
なんだかその様子がとても面白くなって、大きく息を吐いてみる。
それを何度かやっていると、住宅街では珍しい下駄の音が聞こえてきた。
あまりにも聞き覚えのあるソレに一護は足を止める。

下駄はカラコロと愉快な音を立てながら近づいてきて、そうして一護の前で止まった。


「浦原・・・?」
「コンバンハ、黒崎サンv」

現れたのはやっぱり浦原喜助で、いつも通りの帽子と作務衣、それに下駄の格好だ。
寒くないのか・なんて訊く気にもならない。
彼は年中この格好なのだから。

浦原が口を開いた。

「黒崎サンはこんな時間にどちらへ?」
「アンタこそ、どこへ行くつもりだったんだ?」

何となく予想できるが、それでも一護は訊いてみる。
なぜなら、浦原もわかっていてコチラに問いかけてくるからだ。

「浦原商店。」
「黒崎サンのお部屋。」

やっぱり予想通りで、一護は少し笑ってしまった。

「行き違いにならなくてよかった。」
「行き違いになんてならないっスよ。アタシが黒崎サンの霊圧を間違えるはず無いんですから。」
「そう?」
「もちろん。」

浦原が自信満々に言うから一護はさらに笑う。

「ところで、アンタは俺に何の用だったんだ?」

問うと、浦原は何処からともなく淡い色のラッピングを施された包みを取り出してきて、

「これを黒崎サンに渡そうと思いまして。」

なんて言って、一護に差し出した。

「俺に?」
「ええ。今日はホワイトデーっスから。」
「アンタはこの前くれたじゃないか。」

驚いて一護は浦原を見る。
先月――2月14日に贈り物をしてくれたのは浦原だ。
だから今日は一護が彼にプレゼントを渡すつもりだったのだが・・・


「それはそれ、これはこれ。アタシはいつだってキミの喜ぶ顔が見たいだけなんスよ。」

浦原がニコリと笑う。

「ぇ・・・えっと、ありがとう。」

差し出された物を受け取り、一護は嬉しさと気恥ずかしさで目元を朱く染めた。

「いいえ。どういたしまして。」

帽子の鍔の陰から見える眸が穏やかに細められる。
そんな浦原に一護は朱い顔のまま笑顔を返して、それから持っていた紙袋を差し出した。

「コレ、アンタに。」
「くださるんですか?」
「うん。」

浦原がそれを受け取る。

「ありがとうございます。」
「いいえ。どういたしまして。」

一護がさっきの浦原を真似て言った。
浦原はそんな一護を抱きしめる。

「可愛いなぁもう。」
「カワイイとか言うなよ。恥ずかしい。」
「可愛いですよ。アタシの愛しい黒崎サンv」
「ハイハイ。」

今夜は寒いはずなのに、一護はとても暖かいと思った。























「Valentine Heart」と一応つながっています。浦一のWD話。
ちょっと甘めで(笑)

これよりも時間軸は前になるのですが、ルキアと織姫ver.の話がそれぞれありますので、
読んでみたい方はこのままスクロールしてください。




















オマケ





ルキアver.



昨日の夕方、一護が妹達と一緒に帰ってきた。
先月のバレンタインデーのお返しとして一日中彼女達に付き合っていたのだ。

どうやら遊び疲れたようで、双子の遊子と言う方は一護の背に負われて眠っている。
その片割れの夏梨と言う方も自分で歩いているが、その足元はややおぼつかない。
この様子では今夜の食事も一護が作ることになるだろう。
一護はアレでも結構料理上手なようで菓子類から普通の食事まで何でも作るから今夜の心配は皆無だ。

そう思っていると一護が部屋にやってきた。

「おかえり。随分と引っ張りまわされたようだな。」

押入れから出て迎えてやると、彼は少し驚いたようだが
それでもすぐに元に戻っていつも通り眉間にシワを寄せて苦笑する。

「ただいま。・・・まぁそれなりにな。俺も結構楽しんでたし。」
「そうか。それならよかった。・・・ところで、貴様は何を持っておるのだ?」

一護が手に持っている黒地に白文字の紙袋に目を止めて訊いてみる。
すると彼は右手に下げていたそれを少し持ち上げて見せ、こう言った。

「それは明日のお楽しみ。」

立てた左手の人差し指を口元に当てて言ったりするから、私はなんだか素直に頷いてしまった。









翌日。
朝起きると一護が既に押入れの前に立っていた。

「一護・・・?」
「ルキアおはよう。で、ハイこれ。」

寝惚け眼で受け取ったのは昨日見たものよりも幾分小さめの包み。
水色の包装紙に薄いピンク色のリボンがかかっている。
どうやら昨日の紙袋に入っていたようなのだが・・・


「これは?」

受け取って、一護に聞いてみる。
その問いに彼は少し目元を朱くして答えてくれた。

「ホワイトデーだから・・・な?」



どうしよう。すごく嬉しくて、胸が苦しい。
―――心臓がうるさい。



















織姫ver.



あたしは学校に来るのが早い・・・と言うわけではないけど、彼よりはいつも早く来ている。
その理由はいろいろあるけど、やっぱり彼を―――黒崎君を一秒でも多く見ていたいからかも知れない。

そして今日は3月14日。
いつもよりさらに早く来てしまった。
そうなるべきではないのかも知れないけど、やっぱりちょっとそわそわしてしまうのだ。

授業を受ける準備はもうバッチリで、でもたつきちゃん達はまだ来てなくて。
何となく手持ち無沙汰になっていると突然教室のドアが開いた。

「井上?」

疑問符つきで私の名前を呼ぶ。
右手にはいつも通りの鞄と―――・・・
黒崎君がそれを持ってあたしに近づいてきた。

「お、おはよう黒崎くん!!」
「おはよ。今日は随分早いなぁ。」
「そうかな!?黒崎君も早いよね?」

ああ、こんな時に焦ってしまう自分がちょっと嫌になる。
もっとちゃんと話せたら良いのに。

でもやっぱり会話はしたくて、黒崎君に疑問をぶつけてみる。
すると彼は鞄と一緒に持っていたものをあたしの前に差し出した。
それは白い小さな紙袋で可愛らしくダークブラウンのリボンが付けられており、
あたしはそれを受け取って彼の言葉を待つ。

「これさ、井上に渡そうと思って。」
「あ・・・えっと、その。ホワイトデーだから?」
「そういうこと。」



・・・どうしよう。すごく嬉しい。
胸がキュッとなって次の言葉が出てこない。
お礼が言いたいのに思うように声は出てくれなくて、あたしは口をパクパクする。
かっこ悪い。でもとにかく、すごく嬉しい。

「井上・・・?」
「あ、ありがとうっ!」

やっと一つだけ搾り出せた言葉。
それを聞いた彼ははにかむように笑ってくれて、あたしは今度こそ倒れちゃうんじゃないかって思った。
すごくすごく、嬉しくて。






















BACK