1ヶ月後のお返し。
律儀な貴方はきっとくれるんだろうけど。
でもね、そんなのいらないの。
だってもう貰っているから。

貴方は私に笑顔をくれる。
貴方は私に言葉をくれる。

たった一言。

貴方の何気ない一言で、私はとても幸せな気持ちになれるのです。















Valentine Heart




















「一兄、これ。」

似てない双子の片割れがリボンの掛かった箱を差し出した。

「あぁ・・・家に帰ってきてからでいいのに。」

それを見たオレンジ色の少年はそんな風に言いつつも優しい顔になる。
この人の妹である自分と、そして自分の片割れだけが見ることのできる表情。
自分達二人だけの“お兄ちゃん”の表情。
少女は、だからもう一度言う。

「いいから。」

いいの。今、貰って欲しいの。
だって一番に渡したかったから。
普段は見せない様な照れた顔の少女にオレンジ色が言った。

「ありがとう。」

飾り気のない言葉。
だからこそ純粋なその心のままの言葉。

少女が、笑った。





















「お兄ちゃん、もう出かけるの?」
「おう。」

少年がその琥珀色の瞳を後ろに向ける。
オレンジ色の短い髪がパサリと小さな音を立てて舞った。

そこに居たのはさっきの少女の片割れ。
髪をピンで留めたいつもの姿。

未だ幼い様子の少女がその手に持っているのは―――


「これ、もらって。」

今年は夏梨ちゃんが一番だったから。
私は、その次がいいの。

はにかんだ笑顔で少女がオレンジ色の目の前に出したもの。
かわいらしくラッピングされた紙製の袋。

「サンキュ。じゃ、行って来ます。」

オレンジ色がそれを大切に鞄に仕舞って玄関を出た。

「いってらっしゃい。」

少女が、笑顔でそれを見送った。
























「おはよう!黒崎くん!!」

教室に入ったオレンジ色にかけられたのは見知った少女の声。
栗色の長い髪をなびかせて、少女はオレンジ色に近づく。

「おはよ。井上。」

オレンジ色から挨拶が返されて、栗色の少女は嬉しそうに微笑む。
そうして友人達が見守る中、栗色は挨拶を返した少年に筒状の箱を差し出した。
ふわりとリボンがかかった、その少女と同じ雰囲気の飾りつけ。

「俺?」

オレンジ色はキョトンとした表情で自身のことを指差した。

「うん!」

それに栗色の少女はにこっりと微笑む。

学校での“最初”は私がいい。
どうか一番目としてもらって欲しいの。

栗色が髪を揺らして言ったからオレンジ色はそれを受け取って言った。

「ありがとな。」

オレンジ色の眉間の皴が少なくなって、目元が優しくなる。


栗色の少女が、きれいにきれいに笑った。























「一護。」

下校途中。
一人で道を歩いていると、漆黒の髪の少女が声をかけてきた。

見知った顔。
己の人生に大きな変化をもたらした人物。
その一人。

「ルキア・・・どうした?」

そう問うと、漆黒は手に持っていた小さな箱をオレンジ色に押し付けた。

「やる。今日はそういう日らしいからな。」

< 今日は特別な日だと言うから。
届くといい。
せめて、この思いの欠片でも。

一瞬だけ、驚いた表情。
それからオレンジ色はその小箱を受け取り、漆黒を見て言った。

「サンキュ。」


漆黒が、ちょっとだけ嬉しそうに笑った。
























「コンバンワ。」


一人の部屋。
今日もあと少し。

そんな時に大人が窓からやって来た。
夜空に浮かぶ月と同じ色した髪の大人が。


「今何時だと思ってんだよ。」
「スミマセン。でも、一番最後に渡したかったから。」

一番最初は妹サンのものでしょう?
でもアナタには一番に渡したいのです。
だから、一番『最後』に。
今日と言う日が終わる直前に。

そう言って大人が何処からともなく取り出したのはシンプルな手のひらサイズのケース。
それがオレンジ色へと差し出され、くすんだ金色のリボンが揺れた。

大人はニッコリと笑って言う。

「受け取ってくださいな。」

キミに。
キミだけに。
受け取って欲しいのです。
この想いとともに。

「・・・ありがとう。」

オレンジ色がふわりと笑った。

それがあんまり綺麗なものだったので、
大人は少し、泣いてしまいそうになった。























ぶつ切りバレンタイン話(笑)

ちょっと書き方を変えてみたらエライことになってしまった・・・












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