「Hola(こんにちは)」
「Hola、レオナルド」 夕食時のバルの扉をくぐれば、この一週間で顔なじみになったオーナーの男性が出迎えてくれる。 ウェーブのかかった黒髪、色気のあるタレ目は綺麗な紅茶色で、鷲鼻の下に程よい厚みの唇。その人物――スティーブンさんは、成熟した男性らしいほれぼれするようなテノールで「さあ、ここに座って」と入店した僕を席に案内した。 「っす。ありがとうございます」 見上げた顔の僕から見て右側には大きな傷痕が走っている。聞いたところによると、二十代の頃にしばらく従軍していて、その時ついてしまった傷らしい。けれどその傷はスティーブンさんの魅力を損ねるどころか、ますます彼の店にお客さん(主に女性)を集める要因となっていた。今も僕に向かって笑いかけるスティーブンさんの横顔を見て、うっとりするお嬢さんが一人、二人、三人……スティーブンさんと同じ性別を持つ者として悲しくなるからこれ以上数えるのはやめておこう。 「今日が旅行の最終日なんだっけ?」 「あ、いえ。一応今晩もホテルに泊まって、明日、昼前に船で帰る予定です」 「そうか……。でもそうなると、今日がレオと会える最後の日ってことか」 残念そうに肩を落とすスティーブンさんに僕は「大袈裟っすねぇ」と苦笑する。 そう。僕は明日、この国を出る。というか、元々僕はイタリアに住んでいて、ここスペインにやって来たのはただの旅行。スティーブンさんとの出会いも本当に偶然で、たまたま入ったバルのオーナーが彼だっただけのこと。幸いにもスティーブンさんはイタリア人旅行者の僕にとても良くしてくれて、この一週間の旅を食事面で随分サポートしてもらっていた。 僕としてもスティーブンさんとの縁がここで切れてしまうのはどうにも寂しく、今夜こそ頑張ってメールアドレスの交換をお願いしてみようと、ポケットの中のスマートフォンを握り締める。 ……いやいや。まだやらなくてもいいはずだ。だって夕食の注文すらしていない。メアドを聞くのはお会計の時だって大丈夫なはず。この一週間、僕のお会計の時はずっとスティーブンさんが担当してくれていたんだから。今夜だけ別の店員さんになるなんてことはない。と思いたい。 踏ん切りがつかない僕はそっとスマートフォンから手を離す。そして「注文お願いしまーす」と言いつつメニューを広げた。 しかし。 「レオ、どうせなら今夜は僕のおすすめを食べて行かないか? 最後の夜だ、君に僕のとっておきの料理を食べてもらいたい」 ちょっぴり顔を近付けて囁くように告げるスティーブンさんの色気ときたら! 男の僕ですら顔を赤くして「うっ」と呻いてしまうほど。女性だったならひとたまりもないだろう。「ね?」と重ねて尋ねるスティーブンさんに僕はほぼ無意識で「はい」と頷いていた。 スティーブンさんは上機嫌で「ちょっと待っててくれよ」と言い、店の奥へと入っていく。入れ替わりで前髪が長く片目を隠した細身の男性従業員が、「こちらはオーナーからのプレゼントです」と言ってCAVA(地元の発砲ワイン)をグラスで持ってきた。 「え、いやでも」 「どうぞお受け取りください。オーナーも貴方との出会いに感謝しているのです」 スティーブンさんとはまた系統の違う冷たい美貌にほんのりと笑みが浮かぶ。この店員さんが笑った顔を初めて目にした僕は驚いてしまい、彼が淡い山吹色のグラスワインを置いていくのを見送るしかなかった。ああ、しまった。受け取っちゃったよ。スティーブンさんめ、自分で持ってきたら俺がもっと強く拒否すると分かってて従業員の人に持って来させたんだな。これだからホント、色男は……。 渋い顔になりながら、それでも罪のないCAVAを一口。うん。おいしい。 しばらくしてスティーブンさんが皿を持って奥から姿を現した。僕が酒の件で軽く睨むとひょいと肩を竦める。 「さあ、バル・スターフェイズ特性ディナーの始まりだ。存分に味わってくれよな」 そう言ってテーブルに並べられる料理の数々に僕は思わず目を見開いて「うわあ!」と感嘆の声を上げた。たくさんのタパス(小皿料理)がテーブルいっぱいに所狭しと並べられ、空っぽの胃を素晴らしい香りで刺激する。今にも涎を垂らさんばかりの僕にスティーブンさんは小さく笑って、「パエリアの調理も始めているから、もうすぐ最高の状態で持ってくるよ」と付け足した。 パエリア! 僕はスティーブンさんの顔を思い切り見つめてしまう。だってここの店のパエリアは本当に絶品なのだ。魚介をふんだんに使ったパエリアは、サフランで綺麗な黄色に染まった米にその魚介のうまみがぎゅっと染み込んでいて、一口含んだだけで唾液が口の中でじゅわっと溢れる。おっと想像しただけですでに涎が。 「ふふっ。期待以上のやつを用意してやるから、存分に想像を膨らませておくように!」 「めちゃくちゃ楽しみにしてます!」 そう。これが最後の夜だ。楽しもう。 他のお客さんもいるためスティーブンさんが僕の相手ばかりしていられるはずもなく、その長身はまた店の奥へと消えてしまう。それがちょっぴり寂しいけれど、美味しそうな料理を前に僕は目を輝かせてそれらの征服に取り掛かった。 タパスを半分ほど攻略した頃、スティーブンさんがとうとうお待ちかねのパエリアを持って僕のテーブルへと近付いてきた。逸る気持ちを抑えられずに僕はタパスの皿を避けてパエリアのためのスペースを確保する。それが見えたスティーブンさんは目尻にうっすらと皺を刻んで口角を上げる。彼の口が「さあお待ちかねのパエリアだぞ」と告げ―― 「……っ、お!?」 「スティーブンさん!」 長いながーい、僕なんて比べ物にならない長い脚が何かに引っかかってつんのめる。体勢を崩すスティーブンさん。その手から離れるパエリアの皿。空中に舞う魚介とサフランライス。 「あ」 なんて口を開いた時にはもう遅い。アツアツのそれが僕に向かって降ってきた。 「あっつーーーーーーーーー!!!!」 「レオ!!」 スティーブンさんは床と熱いキスを交わすことなく体勢を立て直したが、彼の手を離れた絶品パエリアは見事に僕の服へ着地。跳び上がった僕に慌ててスティーブンさんが駆け寄ってきた。そして動転する僕の腕を掴み、「着替えと、あと火傷の確認も!」と言って奥へ引っ張る。 僕は彼に導かれるまま「STAFF ONLY」と書かれた部屋へ足を踏み入れた。 「はい、服脱がせるから」 「や、ちょ、自分で脱げますから……!」 「いいから、ほら、ばんざーい」 「うぐ」 無人のスタッフルームに入ると、スティーブンさんの手で小さい子供のように着ていたパーカーを脱がされる。そしてインナーも。上半身裸なんて男が恥ずかしがるようなもんでもないけれど、目の前にいるのがまさに色男!って感じのスティーブンさんなので、自分の貧相な身体がちょっと恥ずかしく思えた。身を捩ると、「火傷していないか確かめるから」と言って前を向かされる。 「レオ、じっとして」 「そんな……大丈夫っすよ」 言ってもスティーブンさんはやめようとしない。ちょ、ちょっと待ってくださいよ本当に勘弁して! 僕よりも低い温度の指先が首筋や腹を這うと、どうしても声が出そうになるのだ。奥歯を噛み締めてそれを堪えるけど、腹がピクリと震えるのは抑えられない。 「くすぐったい?」 「わ、わかってんなら、うひゃ! やめてくださいって!」 「ん〜。でももうちょっと……ああ。すまない。やっぱり少し赤くなってる」 鎖骨の少し下辺り、鏡がなきゃ僕じゃ見えないところを指で擦ってスティーブンさんが呟く。全然痛くもないし、むしろスティーブンさんの指のせいでくすぐったさ満点なくらいなんだけど、僕にパエリアをぶっかけてしまったという負い目がある伊達男さんには許容できるものじゃないようだ。 スティーブンさんは従業員の皆さんが休憩中に使っているらしい小型の冷蔵庫から保冷剤を取り出してきて、それをハンカチに包んで患部に当てる。 「つめた!」 「我慢して。あと、軟膏を塗っておこう。それと着替えもだな。上にあるからついて来てくれ」 「うえ?」 「ああ。店の二階と三階が僕の自宅なんだ」 にっこり笑って手を差し出す色男。うっかりその手に自分の手を乗せてしまったのは、スティーブンさんがあまりにも自然にその動作を行ったから。カー! やってられませんな! これが普通にできてしまう男というのは! ともあれスタッフルームを出て、今度は更にその奥にあった階段を上る。精緻な細工が施された木製の螺旋階段を上がり切ると、酒と料理の匂いに満ちたバルとはまた違う、落ち着いた香りがふわりと鼻腔に届く。ああ、これ。スティーブンさんの香りだ。 本当にこの人、ここに住んでんだなぁ。 「この部屋に入って」 「あ、はい」 きょろきょろといろいろ見て回りたい気持ちになったけど、実際にそんな無礼な真似ができるはずもなく。言われるままドアをくぐる。けど……あれ? ここって。 「寝室?」 「そ。僕が使っている寝室」 落ち着いた調度品に囲まれ、ダブルベッドが一台。綺麗にベッドメイクされたそれがどんと部屋の中で待ち構えていた。おおう? 火傷の手当てでどうしてベッドルームに案内されなきゃならんのです? あれ? 戸惑うこちらを置いてけぼりにしてスティーブンさんは僕をベッドに座らせる。上半身裸で他人のベッドに座るとかこれどんな状況? 僕の意思じゃなく全部スティーブンさんがやったことですけどね? 「あの……」 「軟膏を塗るから、ちょっと首逸らして」 「え? いや、えっと」 「レーオ?」 「うぐぅ」 何故かサイドチェストの中から取り出される軟膏。普通そういうのって救急箱とかに入ってません? なんで寝室に? あの、っていうかその瓶、本当に火傷用の軟膏なんですか? なんか俺の見たことないメーカーなんですけど。あ、あと、その、小さな火傷一つにどうしてそんなにたっぷり軟膏掬い取ってるんですか……!? 良くない気配を感じて思わずスティーブンさんから距離を取るように後退する。と言ってもここはベッド。僕はベッドの中央に寄る形となり、スティーブンさんは笑顔でベッドに片膝を乗せた。 「逃げるなよ。痛くしないから」 「い、いたくって。今でも全然痛くねぇっすよ……?」 「うん。だろうね」 僕の脚の間に片膝を置き、軟膏の瓶をチェストに戻した左手で僕の肩を掴んだスティーブンさんは、やけにギラついた目をして言った。 「全然火傷なんてしていないし。そもそもこの俺が可愛い君に傷を付けるはずないだろう?」 んんんんん!? 待って! あの! その言葉の真意は!? え? あれ? 言葉を失くす僕。反してスティーブンさんはますます饒舌になり、「レオ。ああ、レオ……」と僕の名前を連呼する。そして軟膏をごっそり掬っていた指先が、傷があるはずだった(実際には無いらしいけど)鎖骨の下ではなく、更にその下、男にこんなものついてて何の意味があるの?って所ににゅるりと触れた。 「うひ!?」 「今日初めて見たけど、君の肌は綺麗だな。乳首も薄いピンクで、下にいた時からずっとドキドキしてたんだ。ああ、かわいい……」 やめて! 乳首がピンクなのは俺もちょおおおおっと気にしてた事実なの! 言わないで! つーか触るなゴラァ! 両手を突っ張って押し退けようとする俺! しかしなんということでしょう! スティーブンさんの左手がちょちょいのちょい、とこちらの両手をひとまとめにして掴んでしまった。そしてベッドに仰向けどすん! なにこれ死にたい! と、ほんの少しばかりコミカルに表現してみたけれど内情は本当にどうしようもなくなっている。これどう見ても僕がスティーブンさんに押し倒されています。そして女の人でもないのに乳首弄られてます。スティーブンさんちょっと息が荒いです! 「ンあ!」 股間を膝で刺激される。思わず身体が丸まりそうになるけれど、両手は拘束されベッドに押さえ付けられたまま。やだ。まって。これ、こわい。 「すてぃ、ぶん、さん。やめっ」 「ああ……怖がらないで、レオ。俺は君に触れて、君に気持ち良くなってほしいだけなんだ」 これが君との最後の夜なんだから、と切なげに呟かれ、身体の震えが止まる。代わりに軟膏でぬるつく乳首を爪でカリと掻かれ、その刺激に身体が跳ねた。な、ななななに今の!? 「レオ? 胸で感じられるようになってきた?」 「お、おれ男っすよ……!? 男が胸で、か、かかか感じるとか」 「ん? 男でも乳首で感じられるって知らないのか?」 「知りませんよ! それに女の人とだってこういうのしたことないのに!」 「そっかぁ。女の人ともまだなのかぁ」 「なんでそんなに嬉しそうなんだ蹴り飛ばすぞ」 「ははっ。それは困るなぁ」 と言ってスティーブンさんが再び僕の股間を膝で刺激する。同時に違和感を覚え始めていた胸の頂をカリカリと引っかかれて、僕の喉から「ひゃ、う!?」と変な声が漏れた。 「あッ……や、ちょ……すてぃ、う、あっ」 不本意ながら、下着の中でこすれる僕の愚息が徐々に硬度を持ち始めているのが分かる。あと、なんか、ずっと弄られている乳首から、言いたくないけどピリピリ電流みたいな感覚が伝わってきて……やだ、これ、頭がぼんやりしてくる。 「レオ……かわいい……レオ……」 「ひう!」 ちゅう、ともう片方の乳首にスティーブンさんが吸い付いた。唇で乳輪ごと食まれ、前歯で優しく乳首に噛みつかれる。食い千切られるんじゃ、という本能的な恐怖を感じて身を固くすると、舌先がチロチロと乳首を舐め始める。母乳なんて出ないのに、その穴を広げるようにして何度も、しつこく。 「や、それ、やだぁ……!」 情けないことに、僕の声は湿っていた。ぐすぐすと鼻を鳴らす僕に、スティーブンさんがようよう顔を上げる。 そして両方の目尻にキスを一回ずつ。 「泣かないで、レオ」 「やだぁ、はなせよ! こわいっ!」 僕はすっかり幼児返りしていた。でも本当に怖いんだ。身体はわけわかんないし、ビリビリするし、股間のブツは勃ち上がってきてるし、それに何よりちょっとばかり好意を持っていたスティーブンさんにこうされていることが一番わけわからん! 「なんで、っ、こんなことするんです、か」 僕を宥めるように、顔中に降ってくるキス。でもそれらは絶対に唇には触れない。僕の意思を無視するように腕は拘束されたままで、裸の胸をぬるついた指が這う。 「なんで、って……それは」 至近距離にあるスティーブンさんの顔がしかめられた。色男は苦しげに息を吐き出し、 「レオナルド……君とこのまま何も起こらずに離れるのが、どうしても我慢ならなかったんだ」 「っ!」 それはもしかして、僕と同じ気持ち、で。 「スティ、ブ」 「だから。ごめん。気持ちよくしてあげるから、君をちょうだい」 「うっ……あ、あああ、ああっ、ひっ! や、あ、あ、」 上半身だけ裸だったはずの僕はすでに下まで取っ払われ、大きく広げた足の間にスティーブンさんの熱を受け入れていた。やっぱりあの軟膏は傷用の物ではなく、そういう@p途のもので、たっぷり使ってほぐされた僕の後孔はめいっぱい広がり、ぐちゅぐちゅと出し入れされる剛直でひたすら擦りあげられる。 後孔をほぐす過程で見つけられていた前立腺という箇所にスティーブンさんの先っぽがごりごりと当たって、そのたびに僕のつま先はきゅうと丸まり、女の子みたいな甲高い悲鳴が喉から飛び出した。 なにこれ、なにこれ、ホント何だこれ。前立腺が刺激されるたび、頭の中が真っ白になっていく。お腹の中はいっぱいいっぱいで、苦しくて、口から内臓が飛び出るんじゃないかって思うのに、それを忘れてしまうくらい頭の中が空っぽになる。背骨を伝って脳みそに叩きつけられる、疑いようのない快楽に僕は悲鳴を上げるしかできない。 両手は随分前に解放されたのに、その手でスティーブンさんを押し退けることもなく、弱い力でシーツを掻くだけ。それどころか僕の太腿をがっしりと掴み腰を振るスティーブンさんの顔を見上げ、彼の眉根を寄せた表情や「レオ……! レオッ!」とひたすら僕を呼ぶ声にきゅんと胸の奥が疼いた。 「っ! あ、レオ、そんないきなり締め付けないで、くれ」 「やっ、ひゃ、あっ!」 締め付けるとか、そんな意図こちらには全くないってのに! スティーブンさんの色っぽく掠れた声が耳に注ぎ込まれる。そして大きくグラインドされ、ぐりぐりぐり!と一番弱いところをひときわ強く刺激された。 「あああああああっ!」 すっかり勃ち上がり、スティーブンさんの動きに合わせてゆらゆら揺れていた僕の愚息が熱を解放する。同時に、ビクンッ!と僕の身体が大きく跳ねた。実際にはほぼスティーブンさんに押さえ付けられる格好になって大した動きにはなっていなかったのだけれど、代わりに僕の中にいる熱の塊を強く締め付けてしまい、「ぐ、っう」とスティーブンさんが呻いた。 じわり、と腹の中を広がっていく何か、が。 「う……ぁ……っ」 「レオ、ああ……レオナルド……」 脱力した僕を抱き締めてスティーブンさんは何度も何度も名を呼ぶ。甘く掠れたテノールに僕は全然嫌悪感を抱けなくて、自分の中に芽生えていた感情を自覚した。まさか僕がこっち側だったなんて、って驚きはあるけど。でも、そう。スティーブンさんの声も、表情も、熱も、僕は嫌だと思えなかった。 「すまない。すまない、レオナルド」 けれど僕の心情なんて知らないままスティーブンさんはこちらの肩に顔をうずめながら謝罪の言葉を口にする。抱き締める力は痛いくらいになっていて、身体が更に密着するとつられてまだ僕の中にいるスティーブンさんのものがぐちゅりと音を立てた。 「ぅ、ひい」 達したばかりで敏感になっている身体は些細な刺激にも反応する。中も動いてスティーブンさんをやわやわと締め付けた。 「っ……ああ、君の中がこんなに気持ち良かったなんて……。どうしよう、離したくない」 「やっ、は、あっ」 ぐっぐっぐっとスティーブンさんが腰を進めてくる。硬度を取り戻しつつあるそれに僕の中は容赦なくいたぶられ、かき混ぜられ、またあの焼けつくような快楽が僕の精神を侵していく。 「あ、っやらぁ、しゅてぃーぶ、さっ、ア!」 「レオ、レオ、レオっ……!」 スティーブンさんと僕の腹の間で僕のものが容赦なく捏ねられ、ああ、もう。だめだ。きもちいい。きもちよすぎて、あたま、ばかになる。 「やはっ、あ、あンっ、ぃ、ふ、ぅう、っ」 「はっ、……っ、う。れ、お」 奥をがつがつ突かれるたびに頭の中でハレーションが起こって、目の前にパチパチと星が散って、二人の腹の間でこすれるそれがたまらなく気持ちよくて、しかも甘く掠れた声が耳に直接注がれて。スティーブンさんのものが出て行こうとするのに合わせて僕の中はぎゅううと締まり、出て行かないでって声もなく叫ぶ。反対に入ってくる時は歓喜と共にそれを出迎え、包み込む。身体が勝手に反応しているだけなのに、まるで僕の気持ちと連動しているみたいだ。 「ああ、レオ」 顔を上げたスティーブンさんが僕と目を合わせる。彼は笑っているようで、けれど悲しそうな、なんとも言えない表情を浮かべていた。僕の後孔がまた彼の動きに合わせて締まる。 「ッ、まるで、君に愛されているみたいだ」 スティーブンさんの額から滴った汗がポタリと僕の上に落ちる。それがまるで泣いているように見えて、僕は、 「すきです」 「………………え?」 ぐちゅ、と水音が終わり、律動が止まる。紅茶色の双眸が驚きに見開かれ、僕を見つめていた。 「レオ、今」 「貴方が好きです」 「ほ、んとう、に?」 「ほんとう、です。だって」 貴方に抱かれても全く嫌悪感が湧かない。むしろ、 「うれしく、て」 「……ッ! ああ、レオ!!」 紅茶色が燃え上がった。ギラギラと熱っぽく輝いて、再び僕を痛いくらいに抱き締める。律動も再開され、一番いいところを容赦なく切っ先で押し潰された。 「ひぃ、いあアッ!」 「まさか、そんな! ああ、今ならどの宗教の神も信じられるし、その神の足にキスをしたっていい! ああ、ああ、レオッ!」 「しゅてぃ、あッ、ふぅ、く……あっ、や、にゃ! ひ、い!」 「愛してる! 愛してるんだレオナルド!」 「っ!」 熱い、熱くてたまらない告白に、僕の胸は痛みすら覚えた。後ろも強くスティーブンさんを締め付けてその形をはっきりと感じ取る。 その締め付けに、中のスティーブンさんが震えた。一番感じる場所より更に奥の、窄まりに切っ先がキスをして、ぴったりと塞がれる。直後、中のスティーブンさんのものがぶわっと膨らんだような感覚が襲ってきて、 「くっ」 「あ、は、あぁぁぁぁぁ……」 わかる。中に、スティーブンさんの熱が入ってくる。流れ込んでくる。僕は一滴も吐き出さないままスティーブンさんから与えられる快感によって達していた。長い絶頂に太腿がガクガクと震え、スティーブンさんの胴体を強く挟み込む。 「っ、あ、は……はぁ、」 「レオ……」 頬を包み込んだのはスティーブンさんの大きな両手。そのまま鼻先を擦り合わせて視線を交わす。 「しゅてぃーぶん、さ……ンっ」 唇が重なった。 初めてのキスなのに喰らい尽くされそうな深いそれ。こういう時は鼻で息をするんだってことくらい知ってるけど、知っているのとできるのとはまた別問題なんだって解った。 口の中に入ってきたスティーブンさんの舌が歯列や上顎を這いまわり、頭の中に直接いやらしい水音を響かせる。 「んっ、はっ、あ、レオ……」 「ん、ちゅ、んんっ、ン」 くちゅくちゅ、ぐちゅ、と、水音は僕の熱を上げ、圧倒的な昂揚感で脳内を埋め尽くす。キスの最中に閉じてしまっていた目を開けると、睫毛もはっきり見える距離で甘く蕩けた紅茶色がこちらを見つめていた。 「っ、はあ」 唇が離れる。銀糸が二人の間を繋いで、名残惜しげにふつりと切れた。 「Te amo(あいしてる)」 「Ti adoro(あいしてます)」 唇を割って零れ落ちたのは、互いの国でも簡単には口にされることのない最大級の愛の言葉。でも今はどうしてもこの言葉が言いたかったんだ。 真っ赤な顔で荒い息を吐き出して、でもまだ足りないと、僕らは再びくちづけを交わした。 パエジェーロ!
2015.11.24 pixivにて初出 発端はツイッターで仲良くして頂いているナガシマさんの「パエリアレイプ」発言です(*ゝω・)b⌒☆ 番頭さんがレオ君にパエリアぶっかけて洗濯&やけど治療の名目で自分のテリトリーに連れ込み、おせっせするというもの。どれだけパエリアレイプってやつをまとも(?)に書けるか、というところを頑張ってみたのですが、パエリアレイプを書き始めようと思う時点でまともじゃなかった。それを書き終わってから気付きました。あとどう転んでもエロは難しいです。今後とも精進します。 |