【1】

 ウォール・マリアの南側、シガンシナ区に住むエレン・イェーガーには、ミカサ・アッカーマンという少女が家族の一員に加わる少し前からよく見る夢があった。
 それは親友のアルミンと語らう壁の外の世界や日常の些細な追体験などではなく、何もない真っ白な空間から始まる。
(またこの夢だ)
 そして夢の特徴はエレンがそれをはっきり夢と認識していることだった。
 真っ白な空間に立つ己。光源は分からず、周囲がぼんやり輝いているようにも思える。そしてこの空間に現れた時には手ぶらだったはずなのだが――
(いた)
 心の中でもう一言。
 エレンの金の双眸が見つけたのは、いつの間にやら前方数メートルの所に現れた人影。それはもう立派な大人の男だったのだが、こちらに背を向けてうずくまっており、まるで母親に叱られた小さな子供のようでもある。
 更に驚くべきことに、うずくまる男が現れたと同時にエレンの両手には零れんばかりの――と言うか多過ぎてぽろぽろ零れている――花が抱えられていた。
 エレンに何かを抱えた自覚はない。しかし夢だから何でもありなのだ。しかもこれは別に初めてのことではなく、エレンはこれまで何度も繰り返した行為を今回もまた行うだけ。
 沢山の花を抱えてエレンは歩き出す。その道筋にカラフルな花を落としながらうずくまる男のすぐ後ろにまで辿り着き、
「こんばんは」
「……!」
 抱えていた花をぱらぱらと男の頭上に降らせた。
 エレンの接近に気付いていなかったのか、男はびくりと大きく肩を震わせ、それから降ってくる花の存在とエレンの声、振り返って見上げた姿にほっと身体のこわばりを解く。
「てめぇか」
「今日はどうしたんですか」
 エレンはそう言って男の横に腰を下ろす。とは言っても椅子などないので地面――という呼称で合っているのかは不明――に直座りだが。
 出会った当初、タメ口をきいたら「目上には敬語を使え」と怒られたのでそれに従いつつ、「お兄さん?」と首を傾げる。
 何かあったことを前提で話すのは、それがこの夢のセオリーであるからだ。
 この白い空間の夢を見る時、横でうずくまる男は必ず何かに落ち込んでいる。最初は何だったか――……そうだ、彼の友達が死んでしまったという何とも重い話だった。しかも事故や病気ではなく、詳しくは分からないが、男が判断を間違えた所為でとても苦しい死に方をしたらしい。
 落ち込みつつも口は軽い人(という設定)なんだなぁとエレンは思ったが、どうやらこの男もエレンの存在を自分が見ている夢だと思っているらしく、だからこそいつもは胸の奥に閉じ込めたものが零れ落ちてしまったようだった。そういう事情(裏設定)があるならば仕方ない。
 初めての出会いの時、エレンは両手に花を抱えていなかった。しかし悲しそうな男を見ていると何かしなくてはと思い、気付くと両手には沢山の花があったのだ。そうしてエレンはその花を男の頭上に降らせて、痛みを耐えるような顔を唖然とさせた。
 以降も男は、三白眼の鋭い目つきに似合わず、泣きそうな顔で、また時折本当に涙を流しながらエレンに自分の身近に起こった悲しい出来事を話して聞かせる。エレンは二回目から己が事前に抱えるようになった花を男の頭上に降らせた後、男の髪や服に引っかかった分を取り除きながら彼の話に耳を傾けた。
 突然花を降らせるのは、落ち込んでずんずん自分の殻に閉じ籠ってしまいそうになる男をエレンが立つ側に引っ張り上げるために。そして隣に座って話を聞くのは、彼の悩みや悲しみや葛藤を言葉にさせて相手の中で悲しみの整理が上手くいくように。
 エレンから特に何かアドバイスをしたり感想をつらつらと語ることはない。エレンもさほど話が上手いわけでもないので、顔に似合わずよく喋る男にひたすら任せるだけだ。
「駆けつけるのが遅れて目の前で一人死なせちまった」
「どんな人でしたか」
「最近入ってきたばかりのヤツで、俺をよく慕ってくれていた。助けられなかったのが悔しくて、でも」
「でも?」
「アイツ以外にも死んだヤツは沢山いる。なのにそいつの死に顔を直接見た俺の中ではそいつが死んだという印象が妙に強くて……それが悪いってわけじゃないのは分かってる。ただ他にも死んだヤツがいるっていうのにそいつらのことを同じくらい深く考えてやれない自分が嫌で、だがそれを嫌だと思う自分が傲慢に思えて更に嫌になるんだ」
「そうですか」
「ああ」
「傲慢なのはいけないことですか」
「……さあな」
 今もエレンはこの男に正解も何も提示しない。相槌と、せいぜいオウム返しにも似た疑問を投げかけるだけ。また今回もそうなるだろうが、男がエレンの目の前で何か画期的な答えに辿り着くということはない。少なくとも解決策を見つけてはっとしたり嬉しそうに顔を綻ばせるのを見たことはなかった。
 ただ男はエレンに話し、エレンに問いかけられ、その問題や悩みを己の中で静かに消化していく。そして次の夢で会う時には別の要因によって再び一人でうずくまっているのだ。
 今回はいつもより少し話が短かったので、エレンはまだ男の髪や服に引っかかった花を取り除ききれていなかった。男が話したいことだけ話し終えて黙った後も、エレンは小さな手で丁寧に花を取り除いていく。
 だが話が終わって暇だった所為なのか何なのか、ふと魔が差してエレンは回収していたはずの花をわざわざ男の側頭部に飾り付けた。
 泣きそうになっていたらしい男の目の縁はほんのりと赤くなっている。その目でエレンを見つめてきたが、怒ったり拒んだりすることはなかった。
 エレンは更に調子づく。今度は立ち上がり、男の正面に回って頭をゆっくりと撫でた。黒い髪は指通りがよく、後ろの刈り上げ部分は手を上下させると少し楽しい。
 しばらくそうやって遊んでいると、それを容認していた男がそっと腕を伸ばしてエレンを抱きしめた。エレンの腹に男の顔が埋まる。今度はエレンがそれを黙って受け入れる。ただ心の中で、大人のくせに子供みたいだ、と思った。しかし悪い気はしない。
 エレンは男の頭を撫でることから抱きしめる方に切り替えて、腰に回った意外と筋肉質な腕の力が強まるのに身を任せる。
 その日、エレンは夢を見ている間ずっと男の頭を黙って抱きしめ続けた。

* * *

 調査兵団に所属するリヴァイ兵士長には、地下街から出て兵団に入団した少し後からよく見る夢があった。
 それは今はもういない友人達と過ごす日常や壁の外での凄惨な経験の追体験などではなく、何もない真っ白な空間から始まる。
(またこの夢か)
 そして夢の特徴はリヴァイがそれをはっきり夢と認識していることだった。
 真っ白な空間にうずくまる己。光源は分からず、周囲がぼんやり輝いているようにも思える。そして誰の気配も感じられないはずなのだが――
「こんばんは」
「……!」
 ぱらぱらと、突如として頭上から降り注ぐ色とりどりの花。
 気付けばリヴァイの背後に小さな子供が現れていた。少年は両手いっぱいに抱えた美しく咲き誇る花をリヴァイの頭上から降らせると、振り返ったリヴァイを見つめ返す。
 リヴァイは黒髪と金眼をしたその少年を見上げて唸るように、しかし安堵しながら告げた。
「てめぇか」
「今日はどうしたんですか」
 少年はそう言って男の横に腰を下ろす。
 この少年はリヴァイが悩みや悲しみや後悔を抱えている時、夢に現れてただひたすらリヴァイの胸の内を聞いてくれる存在だった。
 リヴァイの見ている夢なのだから、当然、リヴァイが思い付かないような解決策が提示されるわけではない。この少年は本当にただ話を聞くだけだ。
 手持ち無沙汰らしい少年はこちらの話を聞く間、ずっとリヴァイに降らせた花の残りを取り除いており、適度に無関心さが感じられる。しかしそれがリヴァイにとっては心地よかった。下手な慰めも無く、リヴァイの中の感情の整理を手伝ってくれるのは、現実の同僚や後輩、その他周囲の人間などではなく、この子供ただ一人。
 リヴァイは己の胸を占める感情を吐露し、少年はそれにひたすら耳を傾ける。
 ある時、リヴァイはこちらの話が早々に終わって暇で仕方ないらしかった少年が己の頭で遊び始めたので、腕を伸ばしてそっと相手を抱きしめた。
 これが意外と心地よく、リヴァイは腕を下ろす機会を失ってしまう。
 以降、リヴァイはことあるごとにこの少年を抱きしめ――……るようなことはなく、これはこの時ただ一回だけだった。


 しかし出会ってから一年と少し経った頃、
「……おい、ガキ。てめぇどうした?」
 両手に花を抱えていつの間にか現れるはずの子供がその花を脇に放り投げてリヴァイの背中に抱きついてきた。
 少年はぴったりとリヴァイの背中に貼り付いているので、こちらから表情を伺うことはできない。しかし背中の布がじわじわと濡れ始めていることにリヴァイは気付いた。
「何かあったのか……?」
 いつもなら少年が問いかけるはずの言葉を今はリヴァイが発する。背中にしがみつく手の力がぎゅうと強くなった。
 その感触を受け入れながらリヴァイは――場違いかもしれないが――はたと気付く。この子供とは出会って一年ほど経つが、もしかして彼は徐々に成長してるのではないか、と。
 リヴァイはすでに成人を迎えて随分経つため成長も停滞しているが、この年頃の子供と言えば数日会わないだけでも変わってしまうと言われるくらい成長速度が速い。現実はたかが数日でそこまで劇的に変化するはずもないが、それでもこれを夢だと思っているリヴァイにとっては、そのような変化に気付いたのは少しばかり衝撃的なことだった。
 夢の中で成長する子供。その子供が見せた初めての弱さ。
 いつもはリヴァイが夢の中だからということで普段は誰にも見せない弱さをさらけ出している。子供はそれを受け止める存在だった。だから、だろうか。リヴァイはこれからどうすればいいのか全く分からない。
 何か言葉をかけるべきなのだろうか。今まではリヴァイが勝手に喋り、子供はそれを聞くだけ。しかし今、子供は喋らず、ゆえにリヴァイが聞き役に回ることすらできない。
 そもそもリヴァイはこの子供に何かしてやる義理はあるのだろうか? これはリヴァイが見ている夢であり、つまりはリヴァイのための夢なのだから。
(……だからって放っておくわけにもいかねぇだろうが)
 リヴァイはじわじわと背中の布地にしみこむ涙と体温を感じながら胸中で独りごち、そっと動き出す。
 まずは片腕を後ろに回して、しがみつく子供の手を取る。びくり、と小さな身体が震えたが、止まることなくリヴァイは振り返った。両手でそれぞれ子供の手首を掴み、正面から顔を覗き込む。
「……ほう」
 リヴァイは感心したように吐息を零した。
 金色の双眸は涙で潤み、しかし眉はつり上がって何者にも屈しない強い意志を宿している。
「どうした、クソガキ。吐き出したいことがあるなら聞いてやる」
 少年の口元は嗚咽を噛み殺すようにきつく引き結ばれていた。だがリヴァイがじっと見つめていると、その口元が小さく震え、ぴったりくっついていた唇が僅かに開かれる。
「母さんが」
「ん?」
「母さんが……死んだ。巨人に殺されたんだ」
「……っ」
 リヴァイはこの少年がどこに住んでいるのか知らない。否、そもそもこれは夢なのだから、住んでいる場所など現実世界にあるはずがない。しかし脳裏をよぎったのは約百年ぶりに人類を襲った驚異――巨人の侵攻によるウォール・マリア陥落だった。
 こちらが息を呑んだことには気付かず、少年は奥歯を噛みしめるようにして言葉を紡ぐ。
「オレが……オレが弱かった所為だ。オレに力が無かった所為だ。だから母さんを助けられなかった……っ!」
 ギリッと少年の奥歯から噛み締めすぎる音がした。血の涙を流さんばかりの形相で幼い子供は叫ぶ。
「駆逐してやるっ! あいつら全員ぶっ殺してやる……! 絶対だ! 絶対に巨人どもをこの世界から駆逐してやるっ!!!」
 リヴァイは巨人を狩る戦闘集団でも実力的にそのトップに君臨する人間である。しかしこの子供ほど巨人を憎み、憎悪を露わにし、その絶滅を誓う者などいただろうか。こんなにも激しく、こんなにも強く――……そして、こんなにも美しく。
 子供の双眸は加熱されてギラギラと輝く黄金のようだった。むしろ同量の黄金と比較してどちらかを選べと言われれば、迷わず少年の目を選んでしまうくらいに美しく、尊かった。
 それに心奪われたリヴァイは公に捧げたはずの己の心臓がどくどくと速いスピードで脈打つのを感じながら、手首を掴んでいた手を一旦離し、少年の両手を改めて掴み直す。
「おい、クソガキ」
 鏡がないので分からないが、口元はおそらく楽しげに持ち上がっていた。
 少年の意識が憎悪の対象だった巨人からリヴァイへと戻される。それを満足げに眺めながら告げた。
「俺のところまで来いよ」
「……どこに」
「調査兵団へ。俺と共に戦え」
「ちょうさ、へいだん……」
 子供の目が丸く見開かれる。
 その唇がYESかNO、どちらかの言葉を返す前に――






「……あ?」
 夢は終わり、リヴァイは調査兵団本部にある自室のベッドで目を覚ました。



【2】

 エレン・イェーガーは巨人になることができる新兵である。己の母を喰い殺し、己の故郷を奪った憎むべき存在になって巨人と戦うという皮肉にさらされた少年は、味方であるはずの人類からも憎悪と期待を半々に向けられていた。
 他の兵士のように街に住むことは許されず、何かあった時にはその命を狩ることができる複数の兵士達と人里離れた古城での生活を余儀なくされている。だが抑止力として選ばれた四人の兵士と彼らの班長――人類最強を冠するリヴァイ兵士長との生活は、想像していたよりも楽しく穏やかなものだった。
 潔癖症を患っているリヴァイの命令で二日に一度の大掃除があることを除けば、日々訓練に励み、和気藹々と班員達が交流を深めるのは他の兵士と何ら変わらない。むしろ少人数であるために、一般兵より親交は深くなるだろう。
 たとえば当番制で作る食事は各人の好みを考慮して作ることも多いし、良いことがあれば――そして材料があれば――おやつを作ってお茶会をすることもできる。また掃除中に中庭で花が咲いているのを見かけたと誰かが言えば、数時間後には食堂に花を生けた花瓶が飾ってあったりもする。
 そんな生活を送っていたある日、エレンは両手いっぱいに花を抱えて城内を歩いていた。
 午前中の掃除担当が古城の外苑だったエレンは、その時に美しい野花が沢山咲いているのに気付いた。そして昼食の時間になり食堂へ向かえば、本日の食事当番だったペトラ・ラルが非常に美味しい昼食を作ってくれており、そのお礼になればと思って花を摘んできたのである。
 とは言っても十五歳の少年が年上の女性に直接花を贈るのはどうにも気恥ずかしい。なのでエレンはペトラが食堂にいない間に花をいっぱい飾ろうと思い立ったのだった。
 些細なことでも何かしようと考えるようになったのは、巨人化により一度失った人々からの信頼を何とかしてこの班の中で得ようとしていたから――……なのかどうかはエレンにも分からず、そもそもそういうことに思考が至ることもなかったが、兎にも角にも、エレンは珍しく沢山の花を抱えてうきうきと廊下を歩いていた。
 そう言えば、とエレンは歩きながら思い出す。昔、まだシガンシナ区に住んでいた頃、沢山の花を抱える夢を見ていたな、と。
 あの夢は何だったのだろう。エレンはいつもいつも名前すら知らない目つきの悪い男の話を延々と聞いていた。あとちょっと慰めていたような、いなかったような。しかし記憶にある限りでは、エレンが巨人の襲来以降にあの夢を見た後、それからは一度も見なくなってしまった。あの時だけエレンは話を聞く側ではなく話す側となり、そして白い空間にうずくまる男に涙を見せたのだ。
 平和な日常を送っていた頃から調査兵団を目指していたエレンではあるが、あの夢で男に調査兵団へ来いと言われて更にその気持ちが強くなったように思う。
(でもあの人、どんな顔だったかな……夢だった所為かあんまりはっきり覚えてねぇんだよなぁ)
 久しぶりに奇妙なその夢を思い出し、現実世界での注意力が散漫になっていたのだろう。エレンは曲がり角からやって来た人影に気付くのが遅れた。
 結果としてエレンはその人物にぶつかり、抱えていた花を思い切り放ってしまう。色とりどりの花は宙を舞い、ぶつかった人物の頭上へと降り注いで――

* * *

 壁の内側に閉じ籠るしかできなかった人類にもたらされた希望――エレン・イェーガー。巨人化能力所持者という英雄にも悪魔にもなれるその新兵の監視役を仰せつかったのは、人類最強の名を冠するリヴァイ。
 リヴァイは四人の兵士を選出してエレンと自分を含む六人の班を組織した。それはエレンの抑止力になるという名目だったが、真実は何を賭してもエレンを守りきるという目的を持ったものである。調査兵団特別作戦班――通称『リヴァイ班』は街から離れた古城を拠点とし、一ヶ月後の壁外調査までの日々を過ごしていた。
 班員同士が打ち解け始めていくらか過ぎた頃、古城の廊下を歩いていたリヴァイはふと窓から外を見下ろして庭に花が咲いているのを知った。色とりどりの花はリヴァイに昔見た夢を思い出させる。
 白い空間とうずくまる己と、そして沢山の花を抱えた子供。夢だった所為か、顔ははっきり覚えていない。しかし金色の目がとても印象的だった。
 それだけが強く記憶に残っているのは、きっと最後に見たあの夢の中で子供が黄金の目をギラギラと輝かせながら泣いていたからだろう。リヴァイは怒りを滾らせながら泣く子供をただ純粋に美しいと思った。
 そう言えば今リヴァイの監視下にある新兵も金色の目をギラギラさせていたなと、初めてその双眸を正面から見据えることになった審議所の地下牢での出来事を思い出す。
 あの夢の少年が普通の人間のように成長していれば、ちょうど新兵と同じ年頃になっていたはずだ。
(……ああ。確かあのガキもこっちのガキも黒髪だったか。目だけじゃなく髪も一緒とはな)
 更には巨人を憎む心も。
 思い出せば思い出すほど共通点がある。
 そうして昔の夢と傍に置いている新兵のことに思考を奪われていたリヴァイは、彼らしくもなく曲がり角からやって来た人影に気付くのが遅れた。
 リヴァイはやって来た人物とぶつかり、何かが降ってくるのが目に入った。ぶつかったことを罵るより早く、リヴァイはそれが色とりどりの花であることを知って言葉を失う。まるであの夢のようじゃないか、と。
 花の向こう側で唖然としているのは金色の目をまんまるに見開いた新兵――エレン・イェーガー。彼もまた大口を開けてリヴァイを見つめている。
 そのエレンの口が「お兄さん……?」と動いた。
「てめぇ……まさか」
 頭に花を引っ掻けたまま、リヴァイは唸る。
「あの夢でもねぇのに花抱えていきなり現れんじゃねぇよ、クソガキ」
 だがそう告げた口元は確かに笑みを刻んでいた。

 ――さあ、夢の続きを始めよう。







2014.02.07 pixivにて初出