【1】

 巨人という天敵が蔓延る世界で、三つの壁に囲まれた人類唯一の生存圏。そこには人類の平穏を守るため、三つの兵団とそれらに送り込む兵士を養成するための組織が存在している。
 壁の強化に努め各街を守る『駐屯兵団』、犠牲を覚悟して壁外の巨人領域に挑む『調査兵団』、王の元で民を統制し秩序を守る『憲兵団』、そして兵士を育成する『訓練兵団』である。
 兵士達は仕事の内容が様々であっても人類に心臓を捧げていることに変わりはない。よってその活動資金は民の税金から支払われている。だが各兵団の中で調査兵団だけは税金から支払われる分だけでは足りず、資金関連は常に喫緊の問題であった。何故ならば人類の中で唯一壁外へ赴き巨人と戦う彼らにとって、武器や移動手段を揃えるためには莫大な金が必要だったからだ。
 おかげで調査兵団の兵士達、特に役職を持つ者は常日頃から壁外へ出るための訓練以外にも資金集めに奔走する羽目となる。安全な壁内から外へ出てわざわざ巨人に食われに行く£イ査兵団に興味を持った酔狂な貴族や、壁外からもたらされる情報や物資にビジネスチャンスを見出した商人などに幹部達は日々接触を図り、彼らから調査兵が壁外で生き残るための金を出させるのだ。
 が、しかし。ある時から調査兵団の資金繰りが多少改善されるようになった。それは皮肉にも最外壁であるウォール・マリアが超大型巨人に破壊され、人類の生存圏がウォール・ローゼにまで後退して以降のこと。理由は民衆の意識がマリアの奪還に傾いていたのが半分、そしてもう半分が、これまで縁もゆかりも無かったとある貴族が何のつもりかいきなり資金援助をしてきたためである。
 その貴族の名をエックハルト家と言う。
 ウォール・シーナの端に住んでいる箸にも棒にもかからない程度の小さな男爵家であり、貴族とは名ばかりの貴族――……だった。元よりエックハルト家は細々と商人の真似事のようなことをしていたのだが、840年代後半から一気にその勢いを増し、今はその辺の貴族よりもずっと裕福だという。大きな資金力のおかげで本来ならば自分達が従うべきはずの位が高い貴族や一部の王族にすら意見を通すことができるともっぱらの噂である。
 そうなるきっかけとされるのが、勢いを増す直前の代替わりだ。新しい当主は魔法のような手腕でエックハルト家を再興どころか圧倒的な地位にまで押し上げてしまった。
 しかしここで奇妙なことが一つ。民衆の多くはエックハルト家が代替わりしたことを知っている。しかし新しく当主の座についた人物についてほとんど知らないのだった。……その当主の顔やファーストネームですら。
 電撃的と言えるほどのスピードで御家を発展させたこともあり、エックハルト男爵に対して人々は大層な興味を抱いた。もちろん兵士でありながら人の子でもある調査兵団の者達にとってもそれは変わらず。それどころか自分達に惜しみなく資金提供をしてくれるパトロンとして、好意的な意味でエックハルト男爵に関心を抱いていた。


「カトレア様からの臨時便が来たってよ!」
「アイリス様からの!? よっしゃー!」
「あの方の目ってか頭はどうなってんだろうな……。こっちに直接いらっしゃってるわけじゃねーのに、いっつも俺達が必要としてる物を届けてくださるなんて」
「それでこそ稀代の商才を持つアイリス様ってことだろ。人が欲しいと思うものを的確に察する才能!」
「だよな! やっぱカトレア様はすげぇぜ。貴族は貴族でも内地の豚共とは全然違う」
 調査兵団の本部に勤務する兵士二人が別の兵士から聞いた話をもとに盛り上がっていた。しかし会話の内容から同じ人物を話題にしているのは判るのだが、呼び名が全く異なる。そして呼び名が違っているにもかかわらず、盛り上がっている二人も、その会話を聞いて密かに同意している別の兵士も、何ら不都合や違和感を感じている様子はない。
 何故ならばこの調査兵団内において花の名で呼ばれる人物など一人しか存在しないからだ。『様』付きとあってはなおのこと。また、事情を知らない者であっても『稀代の商才』の持ち主で『貴族』であるということから、該当者を絞ることはできただろう。
 人々が関心を寄せる有名人のうち、その二つの単語を兼ねるのはただ一人。――エックハルト男爵である。
 何故エックハルト男爵が花の名前で呼ばれているのかというと、
 ――野に咲く花のように可憐、しかし根は荒れた土地でも生きるために深く強い。そして、時として大輪の花のように鮮烈な方だった。
 調査兵団内で唯一、彼と直接会ったことがあるという元団長のキース・シャーディスがそう形容したから。キースは調査兵団の団長を辞し、訓練兵団の教官になってからしばらくした後、男爵と会う機会があったとのことだった。
 一家の当主となった男に対して可憐やら花やらと形容するのはどうかと言う者もいたが、本当にそうなのだから仕方ないとキースは反論をもらうたびに禿頭を撫でつけながら苦笑してみせた。
 それがきっかけで名も明かされぬ酔狂な男爵のファーストネームを調査兵達は好き勝手に花の名で呼び始めたのである。数年でその習慣はすっかり組織に浸透し、新兵も早くて数日、遅くとも数週間で受け入れられるようにまでなっていた。
 そんなカトレアもといアイリスもといエックハルト男爵からは定期的に資金や物資が届けられている。しかしそれ以外にも、ふと兵士達が「あれが必要だ」「これが無くて不便だ」と思った時に、まるで傍でその様子を見ていたかのようなタイミングで欲しい物を臨時便として届けてくれるのだ。
 この才能があるからこそ、エックハルト男爵は今の地位を築くことができた。
 かの男爵は兎角他人の欲≠ノ敏感であるとされる。
 人々が今、何を欲しているのか。それを的確に察し、この壁内世界に流通させることに関して、彼より優れた者は片手の指にも満たないだろう。また人によっては、エックハルト男爵より優れた者などいないとすら答えるかもしれない。
 それほどまでの人物で、キースの言葉を信じるならば見目も良く、また調査兵団に協力的かつ好意的。この要素が揃ったおかげで謎のパトロンに傾倒する調査兵は少なくなかった。また自らがエックハルト男爵に抱くイメージに合わせた花の名で呼び、その花のイメージが更に男爵の仮初めのイメージを固めてゆくという相乗効果も傾倒の一因になっている。
 ただし当然のことながら、全員が全員、最大手のパトロンに傾倒しているわけではない。特に幹部クラスは未だ顔も名前も判らないパトロンの真意を探りあぐねており、その存在を有り難いと思いつつも、油断はできないとしていた。
 現団長のエルヴィン・スミスがエックハルト男爵と面会したことがあるキースに詳細を聞こうとしたものの、先方がそれを望んでいないとして断られてしまったという過去もある。「色々と複雑な事情をお持ちの方でな」と、悲哀とも慈愛ともつかない表情を浮かべて告げられた台詞が唯一のヒントだろうか。しかし援助はするのに会いはしないという状態がますます幹部達の不信感を煽る結果になっていた。
「おい、エルヴィン。久々に本部へ来てみれば……随分浮かれたヤツが多いな」
 その幹部メンバーの一人であり、またエックハルト男爵とは別の意味で有名人となっている男が本部内にある団長の執務室に顔を出して眉根を寄せた。
 開口一番そう告げる部下を出迎えたエルヴィンが机の向こうで椅子に腰かけたまま苦笑を漏らす。
「仕方ない。今日は特別なんだ。許してやってくれ」
「あ?」
「閣下からの臨時便が来ているんだ」
「なるほど」
 エルヴィンがエックハルト男爵を花の名前で呼ぶことはないが、彼が身内の前で『閣下』と呼ぶのは爵位を持つかの男爵くらいなものである。ゆえに男にはそれだけで通じる。
 未だ男爵の真意は掴めていないが、その援助が有り難いことに変わりはない。また一般の兵士達の感情も十分理解しているため、エルヴィンの答えに対し男は鷹揚に頷いてソファに腰掛けた。
「リヴァイ、騒がしい日に呼び出してすまなかったな。まぁちょうどお前達宛ての荷物も届いているだろうから、タイミングが良いと言えば良いんだが」
 エックハルト男爵から届いた臨時便の中身はまだ全て確認されていない。しかしどうせ今回もリヴァイ達が必要だと思う物も一緒に詰め込まれているのだろう。そう予想してエルヴィンは朗らかに告げた。
 その青い目がついと動き、リヴァイに続いて入室してきた兵士に向けられる。
「エレンもよく来たね。帰りはどうか荷物持ちになってやってくれ」
「はい、勿論ですエルヴィン団長」
 そう答えたのは三年前からリヴァイの部下となっているエレン・イェーガー。死亡率が極端に高い兵団の、更に過酷な戦場へと赴くリヴァイの部下としてエレンは最も長く生存し続けている兵士だった。
 十八歳を迎えたエレンは慣れた動作で心臓を捧げる敬礼をし、年月を重ねると共に身についてきた落ち着いた態度で頷く。そのエレンはソファに腰掛けたリヴァイの斜め後ろで待機しており、すっかり彼の補佐ポジションに収まっていた。
 落ち着いた雰囲気と従順な態度でリヴァイに付き従う姿からは、彼が『人類の希望』かつ『化け物』である巨人化能力の持ち主だとは到底思えない。しかしひとたび壁外に出れば、彼は巨人という名の獲物を屠る狩人となる。その黄金の目を爛々と輝かせ、人の姿で刃を振るい、また巨人となって人類の天敵をその拳で打ち砕くのだ。
 彼は入団当初、危険人物だと見なされて旧調査兵団本部である古城を強制的に拠点とされた。しかし今ではすっかりそこが落ち着く場所となり、エレンの功績が認められて兵団内の空気が緩み始めた今も変わらず使い続けている。また未だにエレンを危険視したり恐れたりする者もいないわけではないので、その辺への配慮もあるだろう。
 おかげでエレンの監視役であるリヴァイも相変わらず古城住まいとなっている。彼曰く、距離的な意味で不便を感じることもあるが、古城の住み心地は中々良いらしい。暮らしている人間が少ないため汚れにくいのが特にお気に入りだと酒の席で呟いたこともある。それを聞いて、潔癖症な彼らしい、と当時のエルヴィンは苦笑したものだった。
 また現在、エレンとリヴァイは古城での二人暮らしとなっているが、エレンの同期や後輩を中心に兵士の行き来がそこそこ活発であるため寂しさを感じる暇はない。むしろリヴァイ曰く「ガキどもがはしゃぐんでうるせぇくらいだ」とのことである。それでも止めさせようとしないのは彼が見た目によらず情に厚い男であるからだろう。それからエレンが古城内の清潔さを保つよう自ら来訪者達に注意しているのも一因か。
 ともあれ、そんな二人が久々に本部を訪れた。これはエルヴィンが要請したものであり、用件はすでにエルヴィンの机の上で己の出番を待っている。
「早速で申し訳ないが、これを見てくれ」
 その用件もとい開封済みの手紙をエルヴィンが差し出せば、リヴァイが顎をしゃくって「エレン」と呼ぶ。エレンは「はい」と二つ返事でリヴァイに応え、直属の上官の代わりにエルヴィンから手紙を受け取った。
「どうぞ、兵長」
「ん」
 自分は一歩も動くことなく手紙を手にしたリヴァイが紙面に視線を走らせる。そしてすぐさま眉間に深い皺が刻まれた。
「またクソ面倒なことを……」
「しかし断るわけにもいくまい。資金集めは我々の重要課題の一つだ」
 加えて今回のは絶対に蔑にできないお方だからな、と苦笑しながら続けるエルヴィン。彼からリヴァイに渡った手紙には王族の血も引いているとある公爵が主催する夜会について記載されていた。招待状と銘打たれたそれにはエルヴィンとリヴァイ両名がゲストとして挙がっている。
 下級貴族や程々の商人ならば何かと理由を付けて断ることも可能だろう。しかし王族にも関わる公爵となれば話は別だ。そしてそもそもエックハルト男爵というパトロンを得ていたとしても、調査兵団はまだまだ金を必要としている。ここで主催者側に気に入られれば、調査兵団の財政はより良い方向に向かうに違いない。
「もうすでに了承の返答をしている。リヴァイ、お前は一週間後の夜会に備えてしっかり準備しておくように」
「……了解した、エルヴィン」
 今にも舌打ちをしそうな表情でリヴァイは頷いた。が、ふと顔を上げて問いを発する。
「エレンはどうする。こいつの名前は書かれちゃいないようだが」
 青灰色の瞳がエレンを一瞥し、再びエルヴィンへと向けられた。
「エレンは今回、呼ばれてはいないよ。いくら功績を重ねているとは言え、公爵の夜会に顔を出せるわけがない。まぁそういうのが好きな貴族もいるようだがね」
 実のところ、そういうエレンを見世物にしたい下世話な夜会に関してはエルヴィンがリヴァイ達の耳に届く前に握り潰していることが多い。ただしそのことは伏せて、エルヴィンは単に怖がりな王侯貴族様方の夜会へエレンを連れて行くことはできないとだけ告げた。
「だったら俺とお前がシーナに出かけている間はどうする」
「古城の地下室で待機だな」
「つまり鍵をかけて牢にぶち込んでおくってことか」
「見張りはミカサとアルミンにしよう」
 エレンは未だ化け物として恐れられている。しかしその功績が認められ、兵団内での空気は確実に緩くなってきていた。そのためリヴァイ不在の間は外から鍵のかかる部屋に入れて見張りを付け監禁する――と言う名目で、シガンシナ出身の幼馴染三人にゆっくりさせてやろうという案も通せるのだ。
 リヴァイが斜め後ろを振り返り、「そういうことだ」とエレンを見る。
「わかりました。当日は大人しくしておきます」
 上官二人の会話の意味を正確に理解したエレンはニコリと微笑んでそう答えた。
 これでエルヴィンが二人を呼び出した用件は終了である。ただしエックハルト男爵からの臨時便を仕分けし、古城へと持って帰ってもらう分を二人に渡さなければならない。それまで少々時間がかかるため、エルヴィンは二人に待機を命ずる。
「荷物の準備ができたらまた呼ぼう。それまで本部内で自由にしていてくれ」
「わかった」
「わかりました」
 二人とも頷き、リヴァイがソファから腰を上げる。と同時にエレンが動き出し、上官のために扉を開けた。リヴァイが扉をくぐり、エレンもその後に従う。最後にエレンが室内のエルヴィンに一礼し、扉は小さな音を立てて閉じた。
 とても自然に行われた一連の動作にエルヴィンはついつい苦笑を零す。エレンのあれはまるで従者だ。しかしあながち間違っていないのかもしれないとエルヴィンは思った。



【2】

 夜会当日。
 いつまで経っても行く気にはなれず、しかし行かなければならないことは解っているので嫌気だけが増していく。そんな中で何とかリヴァイの機嫌を上げてくれたのは、支度を手伝うエレンの手際の良さだった。
 男は女よりも準備が簡単で済む。しかしそれは比較の問題であり、面倒なことに変わりはない。特に主催者側の地位が上がれば上がるほど、髪型一つ、カフスやネクタイピン一つ取っても神経を使う必要がある。だがリヴァイの服装や持ち物に関して、今回はエレンが全て用意してくれていた。リヴァイはただそれを黙って身に着けるだけでいい。それどころかシャツ一枚着るのにもエレンが甲斐甲斐しく手伝う始末だ。
「これで終了です。さすがですね、兵長。よくお似合いです」
 最後にアスコットタイを結んでエレンが一歩下がる。その手際の良さと最後に付け加えられた微笑みにリヴァイの苛立ちも鳴りを潜めた。
 どこにそんな知識があったのか知らないが、リヴァイが首を傾げるほどエレンは全てにおいてそつなく準備を進めていた。彼はシガンシナ区の有名な医者の息子であったというから、ひょっとしたら父親が幾度か貴族や商人の夜会に招かれていたのかもしれない。また二人いる幼馴染の片方が非常に優秀な頭を持っているので、そちらから知識を仕入れた可能性もある。
 詳細を尋ねてみたいような、しかし自分の立場でそこまで突っ込んでも良いものなのか。リヴァイが僅かに逡巡しているうちにエレンは右の拳を左胸に当て、「それでは失礼します。行ってらっしゃいませ、兵長」と一つの任務を終えた清々しい表情のまま退出してしまった。
 これからエレンは地下に向かう。そこは三年前からの彼の寝室でもあるのだが、今宵は見張りという名目で幼馴染の二人が彼の傍で一夜を明かす予定だ。一応鍵をかけることになっているが、本当にかけたかどうかは監視役の二人の証言を信じるしかない。そしてリヴァイは二人の証言をそのまま報告書に記載する予定である。
 エレンが出て行った扉をしばし見つめ、リヴァイは嘆息を一つ。この古城で一夜を明かす三人には事前に伝えているが、リヴァイが戻って来るのは明日の朝であり、しかも主催者側に引き止められるなどの厄介事が起これば更に遅くなる可能性もある。そんな事実が控えているからか、扉を見つめる――どころか、睨み付ける視線には恨めしさすら宿っているようだった。
 夜会になど行くより、いっそエレンと共に寒い地下に一晩籠もっていた方がずっとマシだ。ふとそんなことまで思ってしまい、リヴァイは無駄な妄想だとかぶりを振った。
 ちなみにその妄想の中にミカサとアルミン両名の姿は含まれていない。が、リヴァイがその理由を自覚することはなかった。
 扉から視線を外し、反対側の窓へと意識を向ける。ちょうど遠くから馬の嘶きと車輪の音が聞こえてきて、間もなく迎えの馬車が古城に到着することを教えてくれた。
 リヴァイはもう一度だけ溜息を吐き、エレンが整えてくれたタイを軽くひと撫でしてから自室を出る。
 これから向かう貴族の屋敷で豪勢な食事を口にするより、地下室の狭苦しいエレンのベッドで無理やり横になった方がどれほど魅力的か。またもや詮のない考えを思い浮かべながらリヴァイはついに三度目の溜息を吐き出した。

* * *

「チビがようやく行った」
「お前なぁ、あの人をチビって言うのはやめろって」
「チビはチビ。本当のことだから仕方ない」
「あーはいはい」
「二人とも、話してるのもいいけど先に準備だよ」
「そうだった」
「急ごう」
 ランプに照らされて、こそこそと動く三人の影が室内に投影されている。暗く湿った地下の空気に似合わず、若い彼らの話声は潜められているもののどこか楽しげな雰囲気を持っていた。
 本来ここに住んでいるわけではない二人が持ち込んだ鞄からテキパキと服や装飾品を取り出し、三人目の人物が慣れた手つきでそれらを身にまとっていく。高級品であることが一目で判るそれは三人の年齢や職業から遠くかけ離れたものであったが、扱う手に臆した様子はない。そしてあっと言う間にその地下空間にはどこかの貴族と思しき青年の姿が出来上がっていた。
「馬は?」
 貴族然とした青年が傍らの人物に問えば、尋ねられた方はにこやかに微笑んで答える。
「ちゃんと裏に繋がれてるよ。馬車も当初の予定通りの位置に停めてあるから、あとはそれに乗り換えてね」
「ありがとう。んじゃ、行ってくるな」
「いってらっしゃい」
「待って」
 引き留めたのはもう一人の人物。「これを忘れてる」と言って貴族然とした青年に手渡したのは顔の上半分を覆う仮面である。
「あ、やっべ。大事なモン忘れるところだった」
 青年は苦笑いを浮かべてそれを受け取り、気を取り直して地下の部屋から外へ出た。
 派手ではないが質の高い夜会服が外から判らぬようマントですっぽり覆い隠し、建物の裏手に繋がれていた馬に跨って走り出す。彼が向かうのはウォール・シーナ。最内壁の郊外に建てられた、とある公爵が主催する夜会の会場であった。

* * *

 ウォール・シーナの南側、エルミハ区と繋がる門から程近い場所にその建物はある。今宵の夜会の主催者たる公爵が所有する別荘の一つで、広大な庭を備える豪奢な屋敷だった。
 表の門を通ってからも馬車でしばらく揺られる羽目になり、リヴァイはその間ずっと窓枠を指でカツカツと叩き続けていた。
 古城を出発した馬車は途中で調査兵団本部に寄り、そこでエルヴィンを拾っただけなので、彼以外の同乗者はいない。御者側から中の様子を窺うこともできないため、リヴァイの苛立ちを察しているのはエルヴィンただ一人だ。
 そのエルヴィンが苦笑を浮かべていることにリヴァイは当然気付いていたが、だからと言ってこの苛立ちを抑えるつもりなどない。馬車を降りれば否が応でも大人しくしなければならないのだから、今くらいは自由にさせるべきだと思う。
「そう言えば」
 リヴァイの苛立ちを紛らわすためか、エルヴィンが不意に口を開いた。視線を向けて会話に興味を示して見せれば、向かいの席に座る男の青い目がいくらか楽しげに細められる。
「今日は特別ゲストが来るらしいぞ」
「俺以外の見世物がまだ他にも用意されてるってことか?」
 人類最強として壁内でも特別有名なリヴァイが夜会などに招かれるのは、見合い目的か見世物にするためか、そのどちらかであることがほとんどである。エルヴィンはまだ幾許か政治的な話の席に参加することもあるが、リヴァイがそういったことに深く関わることは滅多にない。
 そんな立場にある己を含め、リヴァイは夜会の主催者らが特別ゲストと呼ぶ人間を『見世物』と形容してみせた。ただしあからさまな自虐的表現の裏には『人類最強の兵士』を招待して悦に入っている内地の豚共への嫌悪と蔑みがある。
「見世物かどうかはさて置き、来るという話だけは聞いている。詳細は会ってからのお楽しみだということらしいがな」
 エルヴィンが肩を竦め、軽い調子でそう答えた。
「ふん。どうせロクなヤツじゃねぇだろ」
「せめて分別のある人物であれば、とだけ祈っておこう」
「そうだな」
 嫌々呼び出された者同士ならば話も通じるかもしれない。ただし公爵に呼ばれたからと言って意気揚々と会場に現れるような人物であれば、なるべく関わらないようにしようと思う。そうでもしなければ自身の機嫌の悪さが限界を突破する恐れがあると、リヴァイは己を正しく理解していた。苛立ちが夜会の参加者に悟られるという事態はあまり褒められたことではない。
「まあ、そいつがどういう奴であれ、結局のところ俺達は俺達で貴族共から金を出させることに努めるしかねぇってことか」
 ぽつりと呟いてリヴァイは視線を窓の外に向ける。流れる景色は速度を緩め、無駄に広い庭が終わって馬車が館の入り口で止まるところだった。


 リヴァイ達が到着した頃にはすでに夜会が始まっており、ちらほらと調査兵でも名前を知っている有名な貴族や商人達の姿が見受けられた。しかし場の雰囲気から察するに、まだ特別ゲストとやらは来ていないらしい。
 主催者である公爵と挨拶を交わした後、リヴァイは早々に壁の花となった。エルヴィンはまだ公爵やその取り巻きと話すことがあるため、人ごみの中に紛れ込んでいる。
 給仕から受け取ったグラスに口を付けて静かに白ワインを煽っていると、ふと会場内に点在する花瓶に活けられた花が目に入った。
 白い花びらが幾重にも重なり、その中央に黄と金が混ざったような色合いの雄しべが集まっている。また花びらは白一色というわけではなく、淡い桃色を交えるものもあった。
 薔薇のような華美さはないが、優雅さと淑やかさを併せ持った美しい花だ。夜会などで花を活けるのは別に珍しくも何ともないが、その花の種類はリヴァイも初めて見る。リヴァイと同じく花に気付いた客もいくらかいるらしく、そうと意識して会話に耳を傾ければある単語が飛び込んできた。
「きれいな花。でも初めて見る品種ね」
「エックハルト男爵のところから取り寄せたらしいわ」
(……王族の血を引く公爵も客にするとは、上手いこと商売してるようじゃねぇか)
 調査兵団において最大のパトロンである人物の名が耳に入り、リヴァイは胸中でそう独りごちる。
 欲する者に欲する物を
 エックハルト家の商いを指してそう称するという話も聞いたことがあったのだが、なるほど確かに、かの男爵は人間の物欲を満たすことに長けているようだ。
 視線を移した先では別の客に花を褒められて満足げに笑っている公爵の姿があった。会場内に飾られた珍しい花は招待客達を楽しませ、ひいては主催者の自尊心を満たしたようである。
 しばらくそうして人間観察に興じていると、入り口の付近が少し騒がしくなったように感じられた。
 空気がざわつき、視線が集まる。余程の有名人でも現れたのかとリヴァイも気になって目を向けてみたが、人が邪魔でその姿を見ることはできない。ただし登場した人物を目にした者の様子は窺える。
(なんだ……?)
 リヴァイは僅かに顔をしかめた。
 新たな来客を目撃したらしい客達の様子が普通とは少し違うのだ。訝るような、戸惑っているような、何とも言えない微妙な空気が漂い始めている。それ程までに風変わりな人物が現れたのだろうか。
 リヴァイは壁から背を離して人垣の合間からその人物を覗き見ようと――……する前に、会場内にひときわ大きな声が響いた。
「ようこそエックハルト男爵! 待っていたよ!」
 声を出した人物と呼ばれた人物の間を埋めていた人垣が割れる。
 両手を広げて新たな登場人物を迎えたのはこの夜会の主催者である公爵。そして迎えられたのは彼に名を呼ばれた通り、リヴァイと同じく今夜の特別ゲストの一人になっているエックハルト男爵だった。
 人が動いたおかげでリヴァイもその場から動く前に男爵の姿を目にすることができ、招待客達が殊更ざわついた理由を知る。
 現れたエックハルト男爵は細身の男だった。貴族にありがちな醜い豚のような姿ではなく、引き締まった身体は動くための筋肉に覆われており、装飾を控えめにした夜会服が良く似合っている。そこは普通だったのだが、皆が驚いたのは彼の顔の上半分を覆う白い仮面だ。本名も顔も晒さない奇妙な人物ではあったが、こうして公の場に出なければいけない場合にもそれは徹底されているらしい。
 仮面舞踏会でもないのに仮面をつけて現れた珍客であるが、公爵はそれを最初から承知していたようだった。「今夜はお招きいただきありがとうございます、閣下」と一礼する若い男爵に、公爵は鷹揚な仕草で頷いてみせる。
「よく来てくれた。君はあまりこういった場に顔を出さないと聞いていたからね」
「いつも良くしてくださる公爵閣下にお招きいただいたのです。断るなどできません」
 仮面の下の口元に優美な弧を描き、青年男爵は微笑みを浮かべた。公爵はエックハルト男爵の答えに満足したらしく、再び鷹揚な仕草で頷く。それから公爵は傍らの白い花にそっと手を這わせた。
「実に見事だ。確かサザンカと言ったかね?」
「はい。かつて東洋の一部地域に見られたという花でございます。壁内では南側の限られた地域でしか生育できない品種ですので、その珍しさにこの美しさが加わることで公爵閣下に喜んでいただけると思いご用意いたしました」
 いかがでしたでしょうか、と尋ねるエックハルトに公爵は「もちろん大満足だとも! さすがエックハルト男爵」と大口を開けて笑う。ガハハと憚ることなく響く声にリヴァイは眉根を寄せ、エックハルト男爵の方はともかくこの男の声は聞いていられない、まさに豚だと胸中で悪態をついた。
 それにしても……、と声に関して思考が及んだリヴァイは、容姿に見合った醜い笑い声を上げる公爵の正面で優美に微笑み続ける仮面の男爵に再度意識を向ける。
(あの声、どこかで聞いたことがあるような)
 しかしどこの誰の声か思い出せない。とてもよく知っているように思うのだが、どれだけ記憶を浚ってみてもその声の持ち主が頭に浮かんで来ることはなかった。
 リヴァイが声に関して思考を巡らせている間に、他の招待客達は珍客の正体があの有名な男爵だと知って不審そうな視線を徐々に正反対のものへと変えていった。いくらか会話をして公爵が離れた途端、エックハルト男爵に人々が群がっていく。男爵という地位よりも実質的には更に強い力を持つ青年とパイプを繋ぎ、その恩恵にあやかりたいという醜い欲が透けて見えた。
「大層おモテになるようだな」
 エックハルト男爵が現れるまで公爵らと話していたエルヴィンが隣に戻ってきたのを気配で察し、リヴァイは視線を向けることなく語りかける。
 半分独り言のようなそれにエルヴィンは苦笑を浮かべ、こちらもまたリヴァイには視線を向けることなく「そうだな」と答えた。
「金は力だ。そして閣下と親しくなれば手に入りにくいものも手に入れられるようになると思っているのだろう」
 エルヴィンの言う手に入りにくいもの≠ェ真っ当な物でないのは、シャンデリアの下で微笑みを浮かべる貴族達を見ていれば分かる。
「しかし閣下がそういった物まで扱っている話は聞いたことがないんだが」
「……ほう。調べたのか?」
「一応な。我々の大事なパトロンのことだ、調べんわけにもいくまい」
 この男がそう言うのなら、砂糖に群がる蟻のような貴族達の思惑を裏切ってエックハルト家は綺麗な商売をしているのだろう。そのことに何故かほっとし、次いでリヴァイは自身の反応に内心で首を傾げた。
 そんな最中、
「お父様、エックハルト男爵がいらっしゃったの?」
 父が父なら娘も娘ということか。
 再び会場に響いた大きな声が人垣を割る。できた道を意気揚々と進むのは、公爵を父と呼んだ十代半ばと思われる少女。他の客達よりもいっそう華やかなドレスは、彼女が公爵に次ぐこの夜会の主役であることを示していた。
「お初にお目にかかります、レディ」
 公爵にしたのと同じようにエックハルト男爵は深く腰を折る。若いが自分よりは年上であろう青年に深々と頭を下げられた少女はまんざらでもないらしく、頬を上気させて「あなたの話は聞いているわ」と緩む口元を手に持っていた扇子で覆い隠した。
「この花もあなたが用意したんですって?」
「はい。貴女様のお美しさには到底かないませんが、この夜会に文字通り花を添えることができればと思いまして」
「うふふ。口がお上手ね」
 歯の浮くような台詞を自然に吐く男爵は、さすが貴族と言ったところだろう。そしてそれを受ける公爵の娘も慣れたものだ。
 ただし同じ台詞でも太った中年男より仮面越しでも整った容姿だと想像できる青年から言われた方が喜びは増すというもの。まだ若い娘は謎めいた仮面の青年に多少なりともくらりと来たらしく、白や淡いピンクが咲き乱れる花瓶の中から殊更真っ白な花を選び、それを手折って男爵の胸ポケットに挿した。
「とてもよく似合ってるわ」
「ありがとうございます、レディ」
 仮面の奥で男爵がにこりと微笑む。それを真正面から受け止めた少女の頬がぱっと赤く染まった。しかも男爵は微笑むだけではなく、その場で片膝を折って少女の手を取り、労働など全く知らない美しい手の甲にくちづけを贈る。
 ますます赤味を増す少女の横顔を見てリヴァイは知らず不満げに鼻を鳴らしていた。自分がそうと気付いたのは隣のエルヴィンが苦笑したためで、バツが悪くなったリヴァイは男爵から視線を外す。
 しかし今夜のリヴァイは全くもってツイていないらしい。夜会に呼ばれたこと自体不幸なことだが、それに輪をかけて面倒なものがリヴァイ達のところに近付いてくるのが視界の端に映る。
 蟻の群を抜け出してきた砂糖――ではなく、貴族や商人の人垣を抜けてきたエックハルト男爵は仮面の奥に覗く金色の双眸を細めて笑みを形作り、ゆっくりとした歩調で歩いてきた。その胸には相変わらず公爵の娘が挿したサザンカの白い花が咲いている。
「エルヴィン団長、それにリヴァイ兵士長も。こんばんは」
「お会いできて光栄です、閣下」
 リヴァイよりも地位が高いエルヴィンが先に応えた。それから順に握手を交わす。
(……ん?)
 男爵の手は豆のある固い皮膚をしていた。貴族であるにもかかわらず、予想外の固さを持つ手にリヴァイは頭上に疑問符を浮かべる。が、他のことが気になってその疑問はすぐに散った。
(視線がウゼェ)
 エックハルト家が調査兵団に資金援助をしているというのは秘密の話でも何でもない。少し耳の良い者なら極々当たり前に知っていることである。ゆえに男爵が調査兵団所属の二人に近付いて来た時も不思議がるような視線が向けられることはなかった。ただしそれは興味を持たれないこととイコールではなく、エックハルトとリヴァイという有名人二人が並ぶ姿に人々は目を向け、耳をそばだてている。それが嫌になるほど感じられ、リヴァイは僅かに顔をしかめた。
 ここが己のテリトリーであれば盛大に舌打ちでもしてやったのだが、今自分がいるのはウォール・シーナの貴族の別荘で、目の前には調査兵団の最大手のパトロンがいる。ゆえにほんの僅かな表情の変化――それこそ親しい者にしか判らないような――に留めたリヴァイだったが、
「ああ、すみません」
 くすりと小さく苦笑してエックハルト男爵が謝罪する。
「私がお二人に会いに来てしまったからですよね」
 何が、とあえて問うまでもない。夜会の招待客から向けられる不躾な視線のことで間違いないだろう。
 男爵はリヴァイが気分を害した間接的原因が己の接近であること、またそもそも僅かすぎる表情の変化からリヴァイが不機嫌になっていることを察していた。
 リヴァイは今日初めて対面した人間に己の表情を読まれていたことに驚く一方で、出資者だからと威張り散らしたりしない男爵の態度にいくらか感心する。と同時に、その青年を見上げているとどことなく親しみすら感じられた。ここ数年で見上げることに慣れてしまった身長と、仮面の奥から覗く瞳の色が原因かもしれない。
 ふと脳裏によぎった部下の姿が目の前の人物と重なり、リヴァイは緩くかぶりを振る。確かに体格は似ているが、当の部下本人は今頃古城で幼馴染達とゆっくり過ごしているはずだ。こんな鬱陶しい場所になど足を運んでいるはずがない。
「リヴァイ兵士長? 体調でも優れませんか?」
「いや、大丈夫だ」
「それなら良いのですが……」
 ご無理はなさいませんよう、と付け足して仮面の奥の双眸が心配そうに細められた。
「お気遣い感謝する」
「人類最強とまで呼ばれる方の体調を慮るのは調査兵団を支援する者の一人として当然のことですから」
 嫌味ではなくごく自然に男爵はそう返す。
 会話に一区切りつくと、次にエルヴィンが口を開いた。
「ところで先程公爵様も仰っておられましたが、やはり閣下がこのような場に出席されるのは珍しいことなのですよね」
「まぁお恥ずかしながら、夜会にお誘い頂くこともままありますが、お断りできるものはお断りさせて頂いております」
「やはり多忙だからでしょうか」
「それもありますね。あまり自由のきく身ではありませんので」
 それも≠ニいうことは別の理由もあるということだ。
 エルヴィンは可能ならばこの機にそれも尋ねてしまおうと思ったのだろう。しかしそれに先んじて会話の隙を突くようにふっとリヴァイの口が開いた。
「失礼だが、その仮面は何のために?」
「これですか?」
 真っ白な仮面を指差して男爵が口の端を持ち上げる。直球過ぎてこの場で発すべきではないだろう疑問を口にした部下にエルヴィンが一瞥をくれたが、問われた本人は気にしていないらしい。
 それどころか面白がるような雰囲気まで滲ませ、
「怖がられないためですよ」
「怖がられないため?」
 オウム返しに問うリヴァイに青年は頷く。
「私の顔は一般の方々にとって恐怖の対象となってしまう。だから隠しているんです。無関係な人を怖がらせてしまうのは忍びないですし、それに何より『化け物』が商売をやっているのだと知られてお客様が減ってしまうのは困りますから」
 エックハルト男爵はどこまでが嘘か本当か分からない台詞をつらつらと告げて肩を竦めた。
 しかし素顔を晒せば他者に怖がられてしまうとはどういうことだろう。真っ白な傷一つない仮面の下には余程醜い傷でもあるのだろうか。
 自らを『化け物』と称する青年にリヴァイは知らず眉根を寄せる。こんなにも安易に感情を乱されてしまうのは相手が調査兵団のパトロンだから――……ではなく、時折彼に重なる別の存在があるからだ。それを自覚し、リヴァイは先刻と異なる意味で眉間の皺を深める羽目になった。
 リヴァイは目の前の青年に何かを告げようと口を開く。しかし喉が震えて声を発するより早く、男爵を呼ぶ公爵の娘の声が響いた。主催者の娘がお呼びとあらば、当然、地位的にずっと低い位置にいる男爵は応えなければならない。先程の男爵の話を信じるならば、そうする必要がない相手なら最初から夜会になど来ていないのだから。
 申し訳ない、と一言告げてエックハルト男爵は二人の前を去る。
 その夜、リヴァイもエルヴィンも再びエックハルト男爵と言葉を交わす機会は得られなかった。二人は当初の予定通りこの別荘に用意された部屋――豪勢なことに一人一部屋ずつだ――で僅かな眠りにつき、翌朝になってから屋敷を発ったのだが、男爵は宿泊することなく帰ってしまったとのことだった。


 朝靄の中、エルヴィンと共に屋敷を発ったリヴァイは馬車の窓を開けて白い息を吐き出す。
「実物は……まあ、悪くはなかったな」
「ああ。俺もそろそろ皆に倣った名前で呼んでみようかとすら思ってしまったよ」
 誰のことかと確認する必要もない。初めて本物を目にして言葉を交わしたエックハルト男爵について、二人はガタゴトと揺れる馬車の中で言葉を交わした。
 朝食も用意されなかったほど早朝であるためと突然の揺れで舌を噛む可能性があるため、言葉数は自然と少なくなったが、エルヴィンが決して大きくはない声で告げた言葉はリヴァイの耳にしっかりと届く。
「お前はどうだ、リヴァイ。呼ぶとしたら何と呼ぶ」
「さあな。決まったら報告してやる」
「それは楽しみだ。俺の方も決まり次第伝えよう」
 冗談交じりにそう告げて二人は再び口を噤む。が、しばらくしてエルヴィンがぼそりと独り言を漏らした。
「いっそ女性なら『ヘリオトロープ』でも面白いかもしれない」
 バニラに似た甘い香りを持つ花の名を挙げる調査兵団団長をリヴァイは小さく鼻で笑い、窓枠に片肘をついて目を閉じる。
 下ろした瞼の裏にちらつくのは仮面の奥に覗いた金色の双眸。それが昨夜何度も繰り返したように、別の人物と重なり合った。
 己が住まう古城に辿り着くまで、つまりその金色と再会するまであと数時間はかかる。それをもどかしく感じながら、リヴァイはもどかしさの理由を考えることなく「ひと眠りする」と告げて一時の休息についた。



【3】

 太陽も大分高くなり朝靄がすっかり晴れた頃にリヴァイは古城へと帰り着いた。その彼を迎えたのは共に暮らしているエレンではなく、その青年を一晩見張る役目を担っていた二人の兵士のうちの一方、ミカサ・アッカーマンである。
 入団当初からリヴァイに良い感情を抱いていないミカサは帰還した上官を睨み付ける勢いで見据えている。とは言っても会うたびに憎々しげな表情を向けられるのに比べれば、今日はまだマシな方だ。無論、彼女の表情が僅かに和らいでいるのは一晩を幼馴染三人で過ごせたからだろう。
(……だがその割にはまだ表情が硬いな)
 てっきり無表情レベルにまで改善されているかと思いきや、その度合いはリヴァイの予想よりも悪い。久々にエレンと時間を過ごせたのに喧嘩でもしたのかと考えたが、親戚でもなくただの上官である自分が尋ねるようなことではないため、リヴァイは言葉少なに「出迎えご苦労」とだけ言って中に入った。
 リヴァイが帰還したということは、エレンの見張り役代行であったアルミンとミカサがお役御免になるということである。したがって地下室から上がってきたアルミンと己の後ろをついて歩いてきたミカサに「昨夜は何も問題無かったか? 無ければ帰って良いぞ」と告げて調査兵団本部への帰還を命じた。アルミンは平素のまま、ミカサは不満そうな様子で問題無しと告げ、それに従う。
「さて」
 二人を帰したリヴァイはその足で地下室へと向かった。
 カツンカツンと硬質な音を立てて石の階段を下り、アルミンから返却された鍵で扉を開ける。部屋の中では、すでに起床して身なりをきっちりと整えたエレンがおり、「メシは?」と短く尋ねれば朝食もミカサらに運んでもらい摂った後だと答えた。
「兵長は朝ごはん、もう召し上がられましたか?」
 逆に今度はエレンが尋ねる。どうやら帰還した時刻から逆算し、夜会の会場を出発したのがかなりの早朝だと気付いたらしい。
 そう言えばまだ食ってなかったな、とリヴァイは今更ながらに己の空腹を自覚した。そして慣れた角度で相手を見上げれば、こちらが言葉を発する前にエレンが「わかりました。すぐに用意します」と淡い笑みを浮かべる。
 エレンは軽快な足取りで石の階段を上がり、炊事場へと向かった。リヴァイもゆっくりとそれに続き、エレンの背中を追いかけようとして――。
「あ?」
 視界の端に映ったある物に足を止める。
 それは地下ゆえに灯りの少ない暗い室内でランプに照らされ、淡く光を放つようにひっそりと粗末な机の足元に落ちていた。
「花びらか……?」
 近寄ってしゃがみ込み、リヴァイはそれを摘まみ上げる。萎びかけているものの、真っ白な花びらのように見えた。
 地下室に生花という不釣り合いさと、どこかで見たことがある花びらの形にリヴァイは眉根を寄せる。これは一体どこで見たのか。そして何故こんな所に落ちているのか――。記憶を漁り、そして。


「エレン」
 地下から地上へと上がったリヴァイは調理場に立つ背に抑揚のない声で語り掛けた。
「アルミンとミカサは昨日、一晩中地下にいたのか」
「はい。いましたよ」
 早速朝食の準備をしているエレンはこちらに一瞥をくれることもなく答える。僅かな躊躇も見られない返答にリヴァイは「そうか」と呟き、

「じゃあ夜会にいたのはお前だな、エレン・イェーガー」

 ピクリとエレンの肩が小さく揺れた。が、未だ振り返ることなくエレンは答える。
「兵長、オレは監視もないまま自由に行動する権利なんて与えられていません」
「それは巨人になれる兵士に限った規則だ。あの場に調査兵は俺とエルヴィンしかいなかった」
「つまりオレは団長と兵長が招待された夜会に出席していないということではないんですか」
「言っただろう? 調査兵は≠ニ」
 この問答が言葉遊びであることをリヴァイは十分承知していた。無論、エレンの方も解っているだろう。
 本来ならこのようなまどろっこしいやり取りなど微塵も好きではない。ゆえにこちら側の考えは先に告げている。しかし今のリヴァイはその後に続いたエレンとの遠回しな会話を楽しんでいた。
 リヴァイは口の端を持ち上げ、全く手の動いていない部下の背を見つめる。
「兵士であるエレン・イェーガーは夜会に招待されていなかった。だが昨夜は俺以外の特別ゲストとやらが出席していてな。しかもそいつは滅多に人前には出て来ねぇ。珍しいだろ? どうやらさすがに断ることのできない相手からの招待だったらしい」
「兵長以外の特別ゲスト、ですか」
「調査兵団の誰もが知っている有名人だ」
「その人は兵士ではないんですよね」
「ああ。兵士じゃねぇ」
 ――だが、兵士でもある。
 リヴァイはそう付け足して、再び肩を揺らした兵士の姿を眺めながらくっと喉を鳴らした。
「へい、ちょ」
「なんだ? エックハルト男爵」
 三度目の正直というやつか。今度はエレンの肩が揺れることはなかった。
 しかし代わりにその細身の青年がやっとこちらを振り返り、黄金の双眸でリヴァイの姿を捉える。
 正体を知られて警戒しているような気配はない。眉尻を下げて困ったような顔をしつつ、いつもとは違うもっと落ち着いた――柔らかだが貫禄のある――雰囲気をまとったエレンが小首を傾げて口を開いた。
「……どうしてお気付きに?」
 その回答はイコール、リヴァイの考えを認めたということである。
 兵士の制服をまといながらも昨夜言葉を交わした貴族の気配を漂わせるエレンにリヴァイはますます高揚しながら説明を始めた。
「地下の部屋に白い花びらが落ちていた。あれはサザンカというやつだろう? 限られた地域でしか生育できない珍しい花だ」
 昨夜お前がそう説明していたよな? と付け足せば、エレンの頭が縦に揺れる。
「おそらく公爵の娘がお前の服の胸ポケットに挿したのがついていたんだろうな。そっから後は芋づる式だ。思い出してみれば、身長も声も、それに目の色も、お前と男爵はそっくりだった。まぁ当然だよな。お前自身なんだから」
 むしろあの場で気付けなかったのがおかしかったくらいだと、今になってリヴァイは思う。エレンである可能性を最初から欠片も思い浮かべていなかったとはいえ、重なる要素ばかりであったというのに。
「ああ……それで。会場ではお気付きになられなかったので何とかやりすごせたと思ったんですが、詰めが甘かったんですね」
 苦笑を零し、エレンは告げる。
「兵長、どうぞお座りください。朝食もまだなんですから、せめてお茶くらいは飲んで頂きたいんです」
 朝食を作る手を止めたエレンは代わりに湯を沸かし始めながらリヴァイに着席を促した。その言葉にリヴァイが素直に従ったことで、会話が一旦途切れる。
 食堂の定位置に着席して待っていると、しばらくしてエレンが茶の用意を持ってきた。茶請けはドライフルーツやナッツが練り込まれたシュトレンと呼ばれる菓子パンで、薄くスライスされたそれが皿に乗せられている。
「これは?」
「オレが作りました。母が昔、この時期になると作ってくれたんです。保存がきくので便利ですよ」
 リヴァイの前にカップとシュトレンを置いたエレンが斜め向かいに座る。貴族が好むような華やかな菓子類ではなく、どこか暖かさを感じさせる茶請けを摘まみながらリヴァイは先程の話を再開させた。
「エックハルトはシーナに住んでる貴族だろ。確かお前はシガンシナの出身だと聞いているが、あれは間違いか?」
「いいえ。オレはシガンシナ区出身です」
 エレンははっきりとそう答える。
「開拓地に食料や生活必需品……えっと、主に生産者を監視する憲兵達のための物ですが……それを運んでくる商人がいることはご存じですか? 多くは市井の商人や、彼らから品物を買い取ってそれを売りにやって来る小規模の商売人達です。しかしたまたま、マリア陥落後にオレ達が送られた開拓地では、商売人達の中にエックハルトという貴族が含まれてました。あの家は貴族でしたが小規模な商売と言いますか……商人の真似事をしていたんです。それくらいやらないと食っていけないほどの貧しい貴族だったんですよ。その関係で当時のエックハルト男爵がオレを見つけて拾ったんです。オレにあるという商才を買って」
「商才?」
「これはアルミンの受け売りなんですが、オレは他人の『欲』というものに関してとても敏感なんだそうです。その所為で自分自身に害の及ぶ『欲』に対して他の人より過剰に反応することも多いとは言われたんですが。ミカサの家族を殺した強盗にやったことは、その最たるものでしょうか。まぁオレ自身としてはあれが過剰だったなんてちっとも思ってませんけど」
 エレンは自分用に淹れた紅茶を飲みながら言葉を続けた。
「ともあれ、だからオレには他人の欲しい物が分かる。あとはそれを仕入れて欲しがっている人の目の前に持っていけばいい。幸いにもエックハルト家は商人の真似事をしていましたから、物を仕入れるための繋がりはあったんです。オレはミカサとアルミンも一緒に保護してくれることを条件に、男爵から言われるまま他人を見て、その人が欲しがっている物が何かを伝え続けました。……ああ、こんな言い方をしていますが、エックハルト家は決して豚みたいな貴族ではありませんでしたよ。欲を出しても仕方のない家系だったんです。あそこには、たとえ家を大きくしても、その家を継ぐための子供がいませんでしたから」
 ティーカップを両手で包むように持ち、エレンは透き通った赤茶色の水面を眺める。記憶を掘り起こすように、水面に映った金の目が眇められた。
「おそらくその所為もあって、エックハルト家の人々は賭けに出たのかもしれません。どうせこのまま潰れてしまうなら、庶民の血を入れてでも御家再興の可能性に賭けてみよう、と。もしくは滅ぶ前の慈善事業のつもりだったのかも」
「それで、お前を家に連れてきたことで商売が上手くいくようになっちまって、そのままお前が跡を継いだってわけか」
「はい。お察しの通りです。訓練兵団に入る少し前にオレが爵位を継ぎました。ただし年齢のことなんかがバレるとナメられるのは分かっていたので、名前も顔も年も隠したまま。訓練兵になってからは手紙で家とやり取りしつつ、色んな所とパイプを作って商売の規模を拡大させていきましたよ。続けられたのは単純に面白かったのと、あとはオレ達を拾ってくれたエックハルト家への恩返しを兼ねて。……キース教官には訓練兵団に入って少ししてから家のことをお話しました。他の訓練兵よりどうしても手紙のやり取りが多くなってしまうので。キース教官は前の調査兵団団長だったんですよね。その頃にはもうエックハルト家から調査兵団へ資金援助が開始されていたので、何とか許可して頂いたんです」
 金の双眸が上がって再びリヴァイを見る。これで説明は足りましたか、と無言の確認がなされた。リヴァイはその視線を受けて口を開く。
「訓練兵の時は教官にぺらぺら喋ったくせに、俺達には言わなかったな?」
「言えませんよ。訓練兵の時ならまだしも、オレは今や巨人になれる兵士として名前も顔も壁内中に広まってしまいました。昨夜も申し上げた通り、エックハルト男爵の正体を知れば人々を怖がらせ、また大事なお客様が離れていく原因になる。言えるわけがありません」
 あの夜会の場で告げた『化け物』という呼称は、仮面の下に醜い傷が隠れているだとかそう言ったことではなく、真の意味で人々が恐れる『化け物』であるために使われたものだったのだ。
 エレンが言うとおり、巨人(になれる兵士)が商売をしていると民衆に知られれば、客は確実に離れていくだろう。それどころか王政府が商売を許すはずがない。キース・シャーディス教官は幸いにもエレンの秘密を守り通してくれているようだが、これは決して迂闊に口外できるものではなかった。
「……まあ、兵長には知られてしまいましたけど」
 肩を竦めてエレンはそう付け加える。
「今でも家との連絡は手紙でやってんのか?」
「はい。エレン・イェーガー≠ェ頻繁にシーナへ行くわけにもいきませんから、エックハルト家への指示は主に手紙でやり取りしています。向こうからの報告書もオレの要望も全て。仲介してくれたのはミカサやアルミン、それから調査兵として働いているうちの子飼いの者とかですね。ああ、あとは時々調査兵団にやって来る商人の一部も。近年は頻繁にここへ知り合いが訪ねて来ても何ら問題視されなくなりましたから、よりたくさん情報を仕入れ、また指示を送ることができました」
 憲兵や王政府にバレればとんでもない事柄をエレンは呆気ないほど気軽に明かしてみせた。リヴァイに正体が知られたのだから、今更隠し事をしても仕方がないと思ったのだろう。
 今まで知らなかったことを知らされたリヴァイは怒るでもなく、驚くでもなく、ただ「ああ、そうか」と納得した。そう言えばエレンの知り合いが古城をよく訪ねてくるようになって以降、エックハルト家からの援助物資が充実度を増したような気がする。調査兵団に届く臨時便に掃除用具が含まれ始めたのもエレンが来た頃と合致するし、事実と言葉に矛盾は見つけられなかった。
「では、改めて自己紹介を」
 おもむろに椅子から立ち上がり、エレンはリヴァイに向かってそう言った。
「オレの名前はエレン・イェーガー。エレン・イェーガー=エックハルトと申します」
 そこらの兵士とは異なる洗練された優雅な動作で一礼した後、黄金の双眸がリヴァイを再び捉える。そして立てた人差し指をそっと唇に押し当て、
「どうか他の人には内緒にしてくださいね」
 青年は艶やかに微笑んだ。
 その笑みにリヴァイの心臓がひときわ大きく脈打つ。
「……なあ、エレンよ」
 己の変化をはっきりと自覚できたリヴァイは部下が再び着席すると同時に彼の名前を呼んで、今度は己が椅子から腰を上げた。
「はい」
「お前は他人の欲しいものが分かると言ったな」
 席を立ったリヴァイはゆっくりと足を動かす。
「はい」
「じゃあ俺が今、何を欲しがっているか当ててみろ」
 エレンのすぐ隣にまで近付いたリヴァイが部下を見下ろす格好のまま告げた。
 黄金の双眸がリヴァイを見上げてゆらゆらと揺れている。逸らされることのない視線は相手の内面を言われたまま素直に探っているのだろう。
 そして数秒後、
「……そんなもので良いんですか?」
 とろりとした黄金を細め、エレンは微笑む。
「お前の目にそう映ったんなら、それが真実なんだろ」
 リヴァイが答えるとエレンは一度ゆっくりと瞬きをして、何かを決めたように手を伸ばしてきた。その伸ばされた手がリヴァイの両頬をそっと包み込む。
「光栄です。でもなんだかちょっと恥ずかしいですね」
「恥ずかしいっつうなら俺の方だろうが。どんだけ年離れてると思ってんだ」
 こんなガキに、と呟きながら、それでもリヴァイの手がエレンの手に重なった。
「くれるのか?」
「高いですよ」
「上等だ。いくら払えばいい」
 金で買えるものではないことくらい解っている。その上でリヴァイが尋ねれば、エレンはくしゃりと破顔して、
「お代はリヴァイ兵長ご自身でいかがですか」
「安い買い物だな」
「では、商談成立ですね」
 その答えと同時にリヴァイは己が欲する者≠フ所有者となった。

* * *

「今日も騒がしいな……」
 十日ぶりに調査兵団本部を訪れたリヴァイが彼を出迎えたエルヴィンに小さく愚痴を漏らす。
 隣を歩くエルヴィンは苦笑を漏らし、「先日と同じパターンだ」と返した。
「閣下からの臨時便が来ていてな。こんなに短期間で次の便が来たのは珍しいが、悪いことではないだろう」
「そうか」
 リヴァイは己の数歩後ろを歩く金眼の部下を一瞥し、隣の男の言葉に相槌を打つ。
 その顔はいつもと何ら変わらない。眉間に皺を寄せ、無表情に少しの不機嫌を交えたような顔をしている。しかし再びリヴァイが「そうか……」と繰り返した時、口の端が僅かに上がった。
 そして、

「ベルガモットが臨時便を、なぁ」

 肩を震わせ、くっと喉の奥で笑う。
 その姿を、またその口から出た呼称を、見て聞いたエルヴィンは思わず足の動きを止めて驚きに目を瞠った。
 おかげで数歩先に進んでしまったリヴァイはゆっくりとした動作で背後を振り返り、何でもないような顔のまま「どうした」と尋ねてくる。彼の横にエルヴィンを追い抜いたエレンが並んだ。
 ベルガモットはその実が紅茶の香り付けや香水に使われる植物の名前である。果実がなると言うことは、当然ながら花も咲く。そう、リヴァイはたった今、エックハルト男爵を花の名前で呼んだのだ。調査兵団最大のパトロンである一人の青年に傾倒している兵士達と同じように。
「リヴァイ、お前は一体何を知って……」
「エルヴィン」
 リヴァイの口元がよりはっきりと持ち上がる。
「他の人間には内緒にしろと言われてるんでな。それは秘密だ」
 優越感に満ちた表情で、しかしどこか陶酔するような双眸で。人類最強の兵士は隣に少し困ったように笑う金眼の兵士を侍らせて、楽しそうにそう言い放った。







2013.12.03 pixivにて初出