「ちょっと雪男どうしよ!? ジジィまた乗っ取られた!!」
『はあ!? 何言ってんの兄さん! またツンデレ発動して神父さんのこと嫌いだとか親だと思ってないとか言ったんじゃないの!?』
「ンなワケあるかぁぁああ!! 今度は身を隠せって言われてちゃんと素直に頷いたっつーの! そしたらなんか素直すぎて寂しくなっちまったみたいなんだよあのジジィどんだけ俺のこと好きなんだよあっさり離れるのも寂しいのかよああもう俺も大好きだけどな!!」
 と電話越しに叫んだのは、少し前に中学を卒業し、その後の進路が全く決まっていない少年。名を奥村燐という。対して電話の向こう側にいるのは、燐とは正反対の有名高校に進学が決まっている双子の弟・奥村雪男だ。
 そして今、燐が立っているのは己が生まれ育った修道院の一室。ただし古いながらも暖かみのあったその部屋は、最早青い炎がそこらじゅうを舐め尽くし、青い地獄と化していた。
 地獄の中央には燐以外にもう一人の姿がある。その人物は神父らしくカソックを纏い、首から祓魔師を示すバッヂをペンダントのようにして下げていた。
 彼こそが身寄りのない燐や雪男を育ててくれた養父、藤本獅郎である。しかし現在、獅郎は心の隙間につけ込んだ悪魔の王・サタンにその身体を乗っ取られていた。サタンの力は強く、普通の肉体では憑依されれば数秒と保たずに崩壊する。聖騎士として祓魔師の頂点に立つ獅郎ですら至る所から出血し、崩壊まであと数分といったところだった。
 そう。サタンに一度憑依されてしまえば、それは最早サタンを身体から追い出しても基本的に手遅れ≠ネのである。にも拘わらず、燐は言った。「また¥謔チ取られた」と、まるで幾度も憑依された経験があるかのように。
「おいおい何言ってやがる。俺様がこいつの身体に憑依すんのもお前とこうして話すのも初めてだろうが」
「うるさい黙れ生みの親。俺は今雪男と話してんだよ!」
 サタンとは悪魔の王である。サタンとは恐れるべき存在である。
 だが燐は悪魔という存在をついさっき知ったばかりで、加えて己がサタンの血を引く半魔であると明かされパニックに陥っているのが普通であるはずの場面だと言うのに、やけに堂々としていた。それどころか養父が憑依される直前までと比べて態度が明らかに変化している。つい先刻までは恐怖にひきつった顔で大人しく獅郎の言葉に従うのみだったのだが……。
「つーかさあ、何度繰り返しゃこのフラグ折れんの? やっぱあの白髪? ハトの足切ってた白髪の奴をどうにかするところから始めねーと回避できないワケ?」
『その辺はまた今度≠フ時に試してみるしかないね。とりあえず今は虚無界の門……できてる? できてたらさっさと壊して第一回生みの親と遭遇イベント≠終わらせちゃってよ。あと神父さんがまだ自害してないなら助けてあげなきゃ。フェレス卿に連絡すれば何とかしてくれそうだし』
「おう。わかったー。……つーわけで、サタン! さっさとお帰り願おうか」
 ピ、と小さな電子音と共に携帯電話での会話を終了させた燐は、そう言って鞘がついたままだった魔剣・倶利伽羅の柄を握る。抜けば完全な悪魔になってしまうと言われていたにも拘わらず、躊躇いなくそれを抜き放った。
 瞬間、サタンが生み出すのと同じ青い炎が一気に膨れ上がる。その炎は藤本獅郎に取り憑いたサタンへと向かい、どんな仕組みなのか肉体は無傷のまま魔神を追い出そうと圧力をかけてくる。
 元々獅郎も憑依されてすぐ後に抵抗を始めていたため、内と外二つの力が合わさってサタンが苦しげに呻き声を上げた。
「俺の親父、返してもらうぜ」
「ぅ、ぐぁああああ!!!」
 ゴゥ! と炎の勢いが増し、ついにサタンが弾き出される。憑依対象から追い出されれば、あとは虚無界に帰るだけだ。そして獅郎の血を使って生み出していた虚無界の門には青い炎を纏った倶利伽羅の刀身が突き刺さる。サタンが消えると共に門も一掃され、部屋には再び静寂が満ちた。
「……ま、とりあえず。今回もメフィストに連絡して……まずは病院だな」
 一応息はあるが重傷の養父を見つめながら燐は眉間に皺を寄せ、その携帯電話に一件だけ登録されている番号へと電話をかけた。
「初めまして、メフィスト・フェレス。突然で悪ぃんだけど、俺の親父を助けてくれねえか?」







2011.10.15 pixivにて初出

以下、無駄設定とか。
何度も人生を繰り返している双子(片方が死亡したら一緒に逆行)。繰り返しすぎて感覚が麻痺している。兄弟が時折ゲーム用語(?)を使うのは、何周目かの時にメフィストからみっちり仕込まれたため。最近は高確率で神父さん救出。ただしどうしてもサタンに乗っ取られる。なので毎回結構重傷な神父さん。繰り返しているのは奥村兄弟だけ。再スタート地点はその時によって異なる。燐が神父さんから渡されるケータイにはメフィストの番号しか登録されていないが、弟のケータイの番号は既に暗記済みなので問題なし。……とか言う電波を(ミーシャの続き考え中の時に)受信したので書いてみました。なんだこれ。